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「完璧に舐められていましたね」“噛ませ犬”扱いの日本人ボクサーが27戦全勝のホープを秒殺TKO…石田順裕がラスベガスを熱狂させた伝説の夜

posted2023/11/12 17:02

 
「完璧に舐められていましたね」“噛ませ犬”扱いの日本人ボクサーが27戦全勝のホープを秒殺TKO…石田順裕がラスベガスを熱狂させた伝説の夜<Number Web> photograph by Naoki Fukuda/AFLO

2011年4月9日、石田順裕は27戦全勝のジェームス・カークランドを初回TKOで撃破。『ザ・リング』のアップセット・オブ・ザ・イヤーに選出された

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Naoki Fukuda/AFLO

日本人選手の活躍が難しいとされるボクシングの中量級で、WBA世界スーパーウェルター級暫定王者に輝いた石田順裕。苦労して手にしたベルトを失い、引退を考えていた35歳の石田は、いかにして“世紀の番狂わせ”の主役となったのか。ロングインタビューの第2回では、世界的には無名の日本人ボクサーが本場ラスベガスを熱狂させた「アップセット・オブ・ザ・イヤー」の真相を繙いていく。(全3回の2回目/#1#3に続く)

「年取ってから酒飲んで愚痴たれるのが目に見えてる」

 WBA世界スーパーウェルター級暫定王者だった石田順裕は2010年10月9日、メキシコでリゴベルト・アルバレスに敗れて王座を失った。35歳の石田は引退しようと考えていた。負けたこと以上に、所属ジムとトラブルを抱え、精神的に追い込まれていた。マネジメントや移籍に関して、選手とジムがもめるケースの多かった時代である。

 ボクシング人生の幕を閉じようとしていた石田を、妻の麻衣さんが引き止めた。

「辞めると言ったら、嫁さんが『アカン』と。自分に限界を感じて辞めるならいいけど、ボクシング以外の理由で辞めたら絶対に後悔する。年取ってから酒飲んで愚痴たれるのが目に見えてる。だからそれだけはアカンと」

 自分自身も納得はしていなかった。世界チャンピオンになれば人生は変わると思っていたが、変わらなかった。初防衛戦は井岡一翔のノンタイトル戦の“前座”に組まれ、ファイトマネーが激変したわけでもない。冴えない現実は、かつて思い描いた世界王者のイメージとはかけ離れていた。だからこそ、まだまだリングに立ちたいという思いは強かった。

 とはいえ自身を取り巻く状況はもつれにもつれ、ジムの移籍はままならず、先に進もうにも身動きが取れない。そこで日本のルールが及ばないアメリカに活路を求めた。03年に初めてアメリカ合宿を行った石田は、07年から試合前はロサンゼルスで合宿を張り、トレーニングをするようになっていた。

 合宿といっても、潤沢な資金があるわけではない。トイレとシャワーが共同、2段ベッドの安ホテルに寝泊まりし、スーパーでチキンを買って自炊をするような生活だ。それでもルディ・エルナンデス、岡辺大介トレーナーの指導を受け、層の厚いアメリカの中量級選手とスパーリングをして腕を磨き続けた。

【次ページ】 全勝の有望株の“踏み台”に「完璧に舐められていた」

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