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「計量前に天下一品のラーメンを…」元世界王者・石田順裕はなぜ“過酷な増量”でヘビー級に挑戦したのか?「グラップラー刃牙の影響で(笑)」
posted2023/11/12 17:03
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
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ラスベガスのMGMグランドガーデンアリーナで“世紀の番狂わせ”の主役となり、ポール・ウィリアムス、ディミトリー・ピログ、ゲンナジー・ゴロフキンといった強豪と拳を交えた石田順裕。ミドル級で世界の頂を体感した男は、現役晩年に最重量級のヘビー級に転向するという前代未聞のチャレンジを敢行する。「体重に関係なく自分が一番強いと証明したかった」「10kg差があろうと勝ってやる」――拳ひとつで“シビアな現実”に抗い続けたボクサーの生き様に迫った。(全3回の3回目/#1、#2に続く)
なぜ村田諒太との対戦をアピールしたのか
元WBA世界スーパーウェルター級暫定王者の石田順裕は2011年4月、ジェームス・カークランド戦の衝撃的な初回KO勝ちでチャンスをつかみ、世界のミドル級トップ選手と拳を交え、13年に活動の拠点を日本に戻した。
十分な手応えを感じて帰国した石田に待っていたのは寂しい現実だった。日本人の中量級選手として特筆に値する活躍をしたにもかかわらず、国内の反応は薄かった。石田は「ショックでしたね」と苦笑いしながら当時を振り返る。
もっと自分のことを知ってほしい――そう考えた石田は、五輪金メダリストからプロに転向した村田諒太との対戦を口にするようになった。村田とやれば注目されるし、プロで多くの経験を積んだ自分が村田にふさわしい相手だという自負もあった。結局、対戦は実現しなかったが、石田は村田へのアピールを10年たった今、次のように語る。
「村田選手の名前を出したのは、やっぱり日本でちゃんと評価されたいという気持ちが強かったからですね。絶対に勝てると思っていたわけじゃないんです。もし実現していたら、厳しい試合になったと思います。自分もアマチュアで長くやったので、オリンピックで金メダルを獲るのがどれだけすごいことか、分かっているつもりですから」