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「飯倉チャレンジ」は知っていても、飯倉大樹は知らない? 無謀と批判されても、GK飯倉はなぜ”攻撃参加”し続けるのか? 

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二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byShigeki Yamamoto

posted2023/04/08 11:05

「飯倉チャレンジ」は知っていても、飯倉大樹は知らない? 無謀と批判されても、GK飯倉はなぜ”攻撃参加”し続けるのか?<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

3年半ぶりに古巣の横浜F・マリノスに復帰したGK飯倉大樹(36歳)。自らのプレースタイルの代名詞にもなっている”飯倉チャレンジ”について語った

「僕が(育成組織から)トップに昇格した2005年から十何年経ってもJ1のタイトルをずっと取れていませんでした。みんな個々は頑張っていても、どうして成果を得ることができないんだろうって自分のなかでずっと引っ掛かっていました。でも心のどこかで自分も含めて満足していたように思うんですよ。口では上を目指すと言っていても、ある程度満足しちゃっているところがあるから本当の意味でリスクを取れていない。ハングリーになっていない。

 そんなときにアンジェがやってきたんです。ハイラインになって攻撃的になって、チームとして殻を破るならこれだろっていう確信が自分のなかにあった。戦術的に一番変更されたのがGK。みんなに与える影響を考えても、これはとてもやり甲斐があるなって。もうガンガンやりましたよ。だって中途半端にやるのが一番良くないと思ったから。もちろん“飯倉チャレンジ”と言われていることも知っていました。もう振り切って“飯倉チャレンジ”をやろう、と」

 相手のアクションを指す言葉だと理解したうえで、彼は自分のアクションに意味合いを変えていく。ゴールを脅かされようが、批判されようが、ガンガン上がりまくった。目立ちたいとか、自分で勝たせたいとか、そこにエゴの色などない。J1タイトルを取り切れていないチームとしての殻を打ち破るために、敢えてエッジを利かせたわけだ。

シゲさんの指導で「道なき道を往けたのかなって」

 無謀と見られがちだが、本人はそう捉えていない。横浜F・マリノスは松永成立を皮切りに川口能活、榎本哲也、そして飯倉らGKとしては小柄な部類に入る選手たちが主にゴールマウスを守ってきた歴史がある。そして2007年から就任した松永GKコーチの熱血指導によって基礎技術が徹底的に鍛え上げられていく。

「クロス対応、シュートストップ、足もとの技術……チームメイトが自分に疑問を持っている状況で上がりまくっても、不信感につながるだけ。それを持たれないように装備を備えてくれたのが、それまでのシゲさんの指導なんです。俺のリュックにありったけの荷物を詰め込んでくれたから、道なき道を往けたのかなって思うんですよ」

 しっかりとしたベース、技術、イロハがあるからこそ自分を信じられ、チームメイトからも信頼されたのだ。

 翌2019年シーズンに入ると朴一圭(パク・イルギュ)が正GKに収まったこともあって、その年の7月に飯倉はオファーのあったヴィッセル神戸へと移籍。「飯倉チャレンジ」を緩めるどころか、ますますアグレッシブになっていく。

【次ページ】 GKなのに、ドリブルで3人をかわして…

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