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サムライブルーの原材料BACK NUMBER
「えっ! GKなのにドリブル?」飯倉大樹36歳は引退決断のタイミングでなぜF・マリノスに復帰したのか「こんなに俺を好きでいてくれたの?」
posted2023/04/08 11:04
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Shigeki Yamamoto
GKなのにドリブル?「もうドリブルすんなよ」って
ある日の練習後、誰もいなくなったピッチで最後までボールとじゃれ合っているベテランがいた。
ここは横須賀市久里浜に今年オープンしたばかりの横浜F・マリノススポーツパーク。ヴィッセル神戸から今季、復帰した36歳のGK飯倉大樹は両手にグローブを着けたまま、楽しそうにドリブルの感触を確かめていた。GKであってもドリブルで攻めていく。それが飯倉である。ボールとのたっぷりの会話を終えてからピッチ横の取材エリアにやってきた。
「ここに帰ってきたときに、哲くんからは“もうドリブルすんなよ”って言われてるんですよ」
渋い顔をつくりながら、どこかうれしそうに映る。
「哲くん」とは長い間、ライバルとしのぎを削ってきた3つ年上の榎本哲也アシスタントコーチのことだ。ヴィッセル時代にも敢えてドリブルしてリスキーな状況をつくったのは2、3度、いや4、5度……。F・マリノスから離れても榎本は自分のプレーを気にかけてくれていた。間接的な愛情表現であることは誰よりも分かっていた。
「毎日楽しいですよ。だってこのクラブのエンブレムをつけて現役の立場で練習できるだなんて思ってもみなかったから」
引退を決めようとした奇跡のタイミングで古巣に復帰
言葉が弾む。その表現がピタリと合う――。
3年半ぶりに古巣へ戻ってきた。それも現役引退を決めようとしていた奇跡のタイミングで。
2022年11月9日、3シーズン半プレーしたヴィッセル神戸から契約満了を告げられた。年齢を考えれば引退という気持ちもあった一方でヴィッセルのチームメイトたちが掛けてくれた言葉によって、もうひと踏ん張りしてみようかとも思えた。
「(山口)蛍とか大迫(勇也)とか、“もっとやるべきだよ。もったいないよ”と言ってくれていたんです。日本代表で戦ってきたアイツらの言葉だから、そうなのかなって思ったし、実際にまだもうちょい体は動くかな、と。現役の最後はF・マリノスのエンブレムをつけて終わりたいなっていう考えはずっとありました」
カテゴリーを落としたうえでの移籍も検討したが、F・マリノスか引退かの2択に絞った。ただ2択といっても、F・マリノスから声が掛かったわけでもない。かつクラブから去った身でもある。年が明けても、状況は変わらなかった。どのチームも編成を終えて始動していた。もともと数パーセントもないであろう確率は日に日に下がっていく。それでもトレーニングジムで体を動かしつつ、ただただ待った。