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退場歴ゼロも私生活で大乱闘「助けに入った仰木(彬)さんの浴衣の帯が…」結婚式場で何が? それでも栗橋茂が“近鉄の初優勝”に必要だったワケ
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2023/02/13 11:01
近鉄を球団創設初Vに導いた西本幸雄監督(写真は阪急監督時代)。優勝後、あの「江夏の21球」が生まれることになる日本シリーズへ
“近鉄4番”栗橋が語る「江夏の21球」
近鉄は先頭の6番・羽田耕一がセンター前に弾き返す。代走の藤瀬史朗が盗塁を試みると、二塁への送球をショートの高橋慶彦が後ろに逸らし、無死三塁と同点のチャンスを迎えた。7番のアーノルドが四球で歩くと、西本監督は代走に吹石徳一を送り、3球目に走らせた。ファーストを守っていた衣笠祥雄はこう振り返っている。
〈一塁、三塁で攻められたほうが僕らは苦しかったですね。一塁、三塁で守るってそれだけヒットエリアが広くなるんですよね。それともう1つ、盗塁することによって二塁、三塁になって開き直ったですね。守ってる者も投げてる者も〉(1983年1月24日放送『NHK特集「江夏の21球」―’79日本シリーズ最終戦―』)
広島は8番の平野光泰を敬遠し、無死満塁。ヒットが出れば、サヨナラ日本一の場面で西本監督は佐々木恭介を代打に送った。佐々木は3球目を叩きつける。大きく弾んだ打球に、サードの三村敏之がジャンプするも届かない。サヨナラの一打になる――。近鉄ファンがそう思った瞬間、打球はファールゾーンへ落ちた。生前、三村が「ボールに触れていた」と述懐したという説もある。栗橋は自らその話を切り出した。
「あれ本当なの? 俺も映像見たけど、ボールとグラブに距離があるような気がする。カスってる感じでもないんだよね。謎だよ」
「スクイズとわかった瞬間に静まり返った」
佐々木は空振り三振で1死満塁に。1番の石渡茂がバッターボックスに入った。1ストライクからの2球目、西本はスクイズを命じた。
「人のサインなんか確認したことないのに、俺もあの時は三塁コーチの仰木さんを見たからね。ベンチが一斉に目を遣って、スクイズとわかった瞬間に静まり返った。それまでワーワー声出してたのにさ。(高橋)慶彦はそれで気付いたと言ってるし。江夏(豊)さんは最初からスクイズを警戒していて、咄嗟に外したと言ってるよね。本当かわからないけど」
三塁ランナーの藤瀬は三本間で挟まれてタッチアウトとなり、2死に。追い込まれた石渡はファールで1球粘るも、最後は江夏のカーブに空振り三振。近鉄の日本一は夢と消えた。
「あの場面に当たった石渡さんもかわいそうだと思うよ。このシーンばかり取り上げられるけど、シリーズの敗因は俺が打てなかったからだよ」
栗橋は責任を一身に背負った。それでも、近鉄の初優勝を牽引した事実に変わりはない。一躍、有名になった男の元にはあらゆる人間が群れ集った。その1人に、怪しげな女性がいた――。〈つづく〉
※1 出典:1979年6月10日付/日刊スポーツ大阪版
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