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朝まで飲んで猛打賞→優勝を決めた“近鉄の4番”…女性トラブルを乗り越えた男も“江川卓には降参”「1球もストレートを振れなかった」
posted2023/02/14 11:00
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph by
BUNGEISHUNJU
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「不思議とね、女性トラブルがあると、どんどん野球が上手くなっていった。あれ、何なんだろうなと思ったもん」
1980年10月11日、勝てば後期優勝の近鉄は地元・藤井寺に西武を迎え撃つ。13時開始のデーゲームにもかかわらず、栗橋茂は朝7時まで飲んでいた。大事な一戦の前、眠れずに仕方なくハシゴ酒をしていたのか。
「いや、野球で眠れないとかストレス溜まるなんてないね。朝まで飲んでデーゲームは全然珍しくなかった。店のシャッターが閉まっていたから、太陽が出てきてもわからなかっただけ。だいたい、いつもそういう感じだった」
“朝まで飲んで”猛打賞&優勝を決めた男
この日、栗橋は先発の根本隆から5回に28号ソロを放つなど3打数3安打の猛打賞。チームは10対4と大勝し、西本幸雄監督が宙に舞った。近鉄はプレーオフでロッテを3連勝で退け、2年連続で広島との日本シリーズに挑んだ。
だが、この年も栗橋は“逆シリーズ男”になってしまう。第5戦まで11打数1安打と打てない。3勝2敗で迎えた第6戦の試合前、評論家が寄ってたかって助言を送った。練習を終えた栗橋は、混乱と落胆を抱えたままベンチに戻った。
「ハァ……ってため息つきながら、俯いていた。そしたら、後ろから肩を揉んでくれる人がいたの。振り返ったら、西本さんだった。『悪くてもいいから、今の形でいけ。誰の話も聞くな』。この言葉でものすごい楽になれて、代打で福士(敬章)からホームラン打てたんだよね」
3勝3敗のタイに持ち込まれた近鉄は第7戦、石渡茂が前年のスクイズ失敗を取り返すように6回に勝ち越しツーベースを放つ。しかし、その裏にリリーフの鈴木啓示が打たれ、2年連続であと一歩広島に及ばなかった。