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退場歴ゼロも私生活で大乱闘「助けに入った仰木(彬)さんの浴衣の帯が…」結婚式場で何が? それでも栗橋茂が“近鉄の初優勝”に必要だったワケ
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2023/02/13 11:01
近鉄を球団創設初Vに導いた西本幸雄監督(写真は阪急監督時代)。優勝後、あの「江夏の21球」が生まれることになる日本シリーズへ
大黒柱を失ったチームは意気消沈した。だが、栗橋は試合後「任しといてください」と拳を突き上げて球場を去った(※1)。
「俺は“マニエルに引っ張られて打った”なんて嫌だからね。俺は俺で打ってるし、マニエルと勝負してたから。マニエルは1死三塁のノースリーでボール球がきても、簡単にレフトフライ上げて打点を稼ぐ。5番の俺からすれば、(四球を)選べよって思う。そんな場面がたくさんあった」
栗橋は宣言通りの働きを見せる。翌日、ロッテとのダブルヘッダー2試合目で4番に座ると、8回裏に仁科時成から逆転2ラン。13日の阪急戦では延長10回表にエースの山田久志からスコアボード直撃の2ランを放ち、“確信歩き”を見せた。
「ライナーで阪急の『0』と書いてある所にドーンと当たったね。低めのシンカーだったと思う。センター方向の打球だと距離があるから、いつもは少し走っちゃうんだけど、あの時は打った瞬間歩いたね。そのくらい完璧だった。ああ、やっぱりマニエルがいないと打てるなと思ったもん(笑)」
球団創設初V。迎えた「伝説の日本シリーズ」
マニエルの離脱でチームは急降下したが、栗橋の奮闘もあって近鉄は前期優勝を果たす。10月、後期優勝の阪急とのプレーオフでは3タテで初のリーグ制覇を達成し、西本幸雄監督を胴上げした。栗橋はパ・リーグ唯一の全試合出場で32本塁打を放つ大活躍を見せた。
ところが、広島との日本シリーズでは快音が出ない。初ヒットは第6戦で、18打数2安打と不振に陥った。
「最初に1本打ったら、とんでもなく乗れたんだろうけどね。短期決戦は徹底マークされるから、ボールを見極めないといけない。実際にフォアボールは取っていたけど、早く1本欲しいし、良い格好したいから打ちにいった場面もあった。それで、ヒットが出なかったからドツボにハマったんだろうね」
“欲”がシーズンと真逆の結果を生んでしまった。3勝3敗で迎えた第7戦、4対3と1点を追う近鉄は9回裏の攻撃に向かう。小雨が降り注ぐ中、今も語り継がれる『江夏の21球』が始まった。