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「奇跡でもまぐれでもない、緻密に構築された勝利だ」トルシエが語るスペイン撃破とクロアチア戦の可能性「勝負はディテールで決まる」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/12/05 06:02
森保監督の采配と日本代表のプレーを認めつつも、グループ1位通過には驚いたというトルシエ
——あなたは奇跡ではないと言いましたが、それでも驚きではありませんでしたか?
トルシエ もちろん驚きで、私が最も驚いたのは日本が1位でグループリーグを突破したことだ。誰もそんなことは思いつかなかった。日本の1位通過に賭ける人間などひとりもいなかっただろう。誰も日本にそこまで期待していなかったから大きな驚きだった。
そして今、クロアチアに勝てるかという質問に対しては、誰もがそれは可能だと答える。可能性は五分五分だ。誰もが日本に対する認識を改め、日本がドイツ戦やスペイン戦と同じパフォーマンスを繰り返すことを期待している。専門家たちも日本が同じことを成し得ると語っている。
——日本のグループリーグをどう総括しますか?
トルシエ 信じられなかったと言いたい。とりわけ結果に関しては、驚きでもあった。しかしその結果は、選手の才能と監督の戦略・戦術、日本の野心と伝統により成し遂げられたものだ。
日本はポゼッションで常に相手に支配されたが、サッカーはパスを繋ぐチームに勝利が与えられる競技ではない。ゴールを挙げたチームが勝つ競技だ。日本が見せたのは見事なまでの効率であり、深い位置からの攻撃だった。才能と個性のある選手たちが互いを補いながらプレーした。左右のバランスは良く取れ、技術のある選手たち——特に中盤の田中(碧)や鎌田、守田(英正)らの技術が安定して強固だったし吉田(麻也)ら最終ラインも同様だった。だから所かまわず走る必要がなく、中央にブロックをしっかりと形成すれば十分だった。
GKの権田(修一)も安定していた。すべての要素が出揃いチームは見事にバランスが取れていた。けが人も最小限で、監督は選手を最大限に活用した。選手を信頼し、ピッチ上で彼らの能力を最大限に引き出した。とりわけ試合を終える選手たちの能力を。
トルシエが注目した日本選手
——選手では誰が印象深かったですか?
トルシエ 三笘と堂安は、ゴールへのイニシアチブを握った点において興味深かった。だが私にすれば、全員が持てるポテンシャルを存分に発揮した。誰もが素晴らしかった。それぞれがパーソナリティと独自性を持っており、求められる役割をしっかりと果たした。そして誰もがレベルに達していた。スペイン戦に先発出場した谷口(彰悟)も、他の選手たちに決して引けを取らなかった。
日本に弱点はなかったが、久保が多少はそうだったかも知れない。守備にも多大なエネルギーを割かねばならなかったのは、久保にとって少々厳しかっただろう。それもあってハーフタイムでの交代が続いた。久保の本来の能力が引き出されたとは言い難い。そこが前田との違いで、前田は献身的にプレーできる選手だ。彼はどんなボールも追いかける。前田が日本の敢闘精神を体現している。
——それこそが前田の役割だと思います。