「奇跡でもまぐれでもない、緻密に構築された勝利だ」トルシエが語るスペイン撃破とクロアチア戦の可能性「勝負はディテールで決まる」

　日本がドイツとスペインを抑え、グループリーグを首位で通過したのは、フィリップ・トルシエにとっても大きな驚きだった。ドイツ戦に続く快挙となったスペイン戦をトルシエはどう見たのか。そしてグループリーグをどう総括したか。さらには日本がベスト8を懸けて戦うクロアチア戦の展望は……。スペイン戦勝利の直後にトルシエが語った。

驚くべき勝利だが、偶然ではない

——スペイン戦をどう分析しますか。奇跡以上のことが起こったといえますか？

トルシエ　奇跡でも出会いがしらでもまぐれでもない。単にスペインに勝ったというだけではないし偶然は何もない。緻密に構築された勝利だ。選手の才能がありチームの戦略があり監督のコーチングがあった。もちろんいくらかの幸運もあった。そして運が鍵でもあった。後半のスタートから6分であげた2つのゴールが、その後のすべてを狂わせた。

——スペインに関してはそうでした。

トルシエ　彼らは驚き、ペースを取り戻そうとしたが、日本のスピードに面喰いリズムが完全に狂ってしまった。同時に自信も失って、自分たちのサッカーをやり続けることができなくなった。平静でもいられない。パスを繋げてボールを回すには平静さが不可欠だが、その精神的な余裕を失ってしまった。また相手にリードされて挽回するのも彼らには不慣れだ。日本の勝利は決して偶然ではなかった。

　たしかに驚くべきことではある。2つの試合の内実がまったく同じで、スペイン戦はドイツ戦のコピーそのものだった。前半は守りに専念して相手にボールを持たせる。それでも失点を喫するが、後半に入り久保（建英）と長友（佑都）を下げて攻撃に転じて逆転するのも同じだった。森保（一）がこのシナリオを予め描いていたのかどうかは確認する必要がある。もしそうだとしたら、彼は本物の呪術師だ。彼が実践したのは呪術であってコーチングではない（笑）。

トルシエに「呪術」と言わせるほど、采配が的中した格好の森保監督　©Takuya Sugiyama/JMPA

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——試合後の会見で森保監督は、今日の戦略は彼ひとりで考えたのではなく、選手たちの要望も受け入れてのことだったと述べました。元々は違う戦略を考えていたが変えたそうです。

トルシエ　それはある意味当然のことだ。森保は同じ選手たちとこの3～4年ともに活動している。選手たちも海外で豊かな経験を積んでいる。彼は選手に自らを表現する場を与え、それを維持していくために軸となる選手に信頼を寄せた。そのやり方がとてもうまくいっているように見える。

　森保には選手として海外でプレーした経験はなく、指導者になってからも国外で指揮を執ったことはない。対して選手たちはほとんどがヨーロッパのクラブに所属する。W杯は世界のトップチームとの戦いだ。彼には選手の声に耳を傾ける知性があった。それは決して弱さではない。むしろ知性の輝きによるもので、とてもいい雰囲気を作りあげた。

　選手交代をしたのも森保であり、彼のコーチングは極めて適切だった。鎌田（大地）に代えて冨安（健洋）を入れたのは、スペインが前線にさらに2人のアタッカーを投入してきたからだ。彼らはピッチをより広く、よりワイドに活用しようとした。冨安投入は、試合前に入手した情報から引き出した決断だったのだろう。すべてがいい方向へと向かった。

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