甲子園の風BACK NUMBER
吉田輝星、奥川恭伸はもう現れない? 甲子園ベスト4に「絶対的エース」がいない“2つの理由”《球数制限だけではない》
text by
西尾典文Norifumi Nishio
photograph byKYODO
posted2021/08/27 17:05
2年生ながら巧みな投球術で初のベスト4入りに貢献する京都国際・森下瑠大。準々決勝・敦賀気比戦では先発を回避し、6回からマウンドに上がった
一方で“絶対的なエース”を軸に戦うチームが勝ち残ることができない要因の1つとして、「1週間500球」という球数制限が挙げられる。
優勝候補の筆頭だった大阪桐蔭は2回戦で近江に敗れたが、最後までエースの松浦慶斗を登板させることはなかった。序盤でリードしながら追加点を奪えなかったことも敗因だが、球数制限を考える必要がなければ松浦を中盤から投入して……という展開も想定できたはずである。甲子園という舞台で力を発揮できる投手を複数そろえるというのは、もはやスタンダードになりつつある。
また情報量が増えたことにより、分析の質の高まっていることも触れておきたい。以前は「地方大会の中継映像が見られるのは決勝戦だけ」というケースも少なくなかったが、現在では全試合ネット配信している地方もあり、数年前と比べても手に入れられる映像は格段に増えた。それだけ映像があれば相手ピッチャーの癖や配球の特徴をより分析しやすくなることは確かで、突出しているエースを研究するのは当然である。
今大会No.1右腕と評価が高かった風間球打(ノースアジア大明桜・3年)は、明徳義塾の粘り強い打撃で球数を増やされ、攻略された。これも徹底した分析の賜物と言える。
勝ち残った4校はいずれも1人の投手を攻略すれば勝てるというチームではない。どの監督も「継投」を頭に入れて戦うはずだ。そういう意味でも例年以上に投手起用や継投のタイミング、手腕が重要となる。新しい高校野球の姿を確立する大会になるだろう。
時の流れを象徴するような心理戦を楽しみながら、大会の行方を見届けたい。