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吉田輝星、奥川恭伸はもう現れない? 甲子園ベスト4に「絶対的エース」がいない“2つの理由”《球数制限だけではない》
text by
西尾典文Norifumi Nishio
photograph byKYODO
posted2021/08/27 17:05
2年生ながら巧みな投球術で初のベスト4入りに貢献する京都国際・森下瑠大。準々決勝・敦賀気比戦では先発を回避し、6回からマウンドに上がった
古くから高校野球界には「春は投手力、夏は総合力」という言葉がある。上の3校をみればそれは納得なのだが、下記の結果を踏まえると少し傾向が変わってきたような気もする。
過去の春ベスト4の中でプロ入りした投手は平沼翔太(15年敦賀気比→日本ハム4位)、田浦文丸(17年秀岳館→ソフトバンク5位)、柿木蓮、根尾昂、横川凱(18年大阪桐蔭→日本ハム5位、中日1位、巨人4位) 、石川昂弥(19年東邦→中日1位)、中森俊介(20年明石商→ロッテ2位)だが、平沼と根尾、石川は野手での指名であり、横川もチーム内では3番手という立ち位置だった。その他では東洋大を経て昨秋にドラフト指名された村上頌樹(16年智弁学園→阪神5位)が目立つ程度である。
一方、夏に勝ち進んだチームの顔ぶれを見ると小笠原慎之介、吉田凌(ともに15年東海大相模→中日1位、オリックス5位)、佐藤世那(15年仙台育英→オリックス6位)、今井達也(16年作新学院→西武1位)、清水達也(17年花咲徳栄→中日4位)、柿木、根尾、横川、吉田輝星(18年金足農→日本ハム1位)、奥川恭伸(19年星稜→ヤクルト1位)、そして中森と数で見れば春よりも多く、プロ入り当時の指名順位も高いことが分かる。
もちろん「夏は総合力」が求められ、投手力だけで勝ち抜けるほど甘いものではない。だが、やはり夏に強いチームの条件として好投手がいることは大きなアドバンテージとなり、つまり「夏こそ投手力」ということがよく分かるだろう。
絶対的エース不在のベスト4
しかし興味深いのは、今年のベスト4の投手に関してみると、過去5大会とは異なる傾向が出てきているところだ。
それぞれ力のある投手が擁するものの、この秋のドラフト指名が確実視されるような選手は不在。強いて言えば智弁和歌山の1番・中西聖輝(3年)が候補として名前が挙がるぐらいだが、地方大会での登板機会は決して多くなく、今大会も中西を含めた5名がマウンドに上がっている。さらに近江や智弁学園にしても投手に2枚の柱を置き、初のベスト4入りを果たした京都国際も準々決勝では2年生エース森下瑠大が先発を回避している。
こういった“投手の分業制“は今に始まったことではないが、その傾向が顕著に現れた大会と言える。過去5大会にいた小笠原、今井、吉田輝、奥川などに代表される“チームの顔”ともいえる象徴的なエースは、この4校にはいないのだ。