“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
突然のオファーに「え、なんで俺?」選手権優勝、山梨学院“11番”廣澤灯喜はなぜポルトガルに行けたのか
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byNaoki Nishimura/AFLO SPORT
posted2021/02/22 17:01
選手権決勝・青森山田戦で貴重な先制ゴールを挙げたMF廣澤灯喜。大会中に大きな成長を見せたことで海外挑戦への道が開けた
「縦へ仕掛けろ」
高校3年になると、就任2年目を迎えた長谷川大監督と衝突する機会も増えていったという。自分の武器は左サイドからのカットイン。しかし、長谷川監督には頑なに「縦へ仕掛けるドリブル」と「献身的な守備」を求められた。
「今振り返ると、自分のやりたいプレーばかりをやろうとし過ぎてしまって、監督の指摘に対して反発をしていました」
悪循環は悪循環を生む。昨年3月には新型コロナウイルス感染症拡大の影響で活動自粛を余儀なくされ、ようやく練習再開となった直後にはまたも怪我に泣き、今度は手術を強いられた。気づけばもう8月。長谷川監督が中心となって開催したフェスティバルにも参加できず、焦りばかりを募らせていた。
「チームメイトがこの大会でいいアピールをして、関東の1部リーグの大学進学が決まっていく。なのに僕はプレーすることすらもできない。焦ったし、悔しかったし、『復帰したらがむしゃらにアピールしていくしかない』と自分に言い聞かせていました」
9月に復帰した廣澤はプリンスリーグ関東、選手権の県予選と、これまでの鬱憤を晴らすかのように得意のドリブル突破を仕掛け、必死にアピールした。しかし、オファーの声は一切掛からず、それどころかチーム内でも“スーパーサブ”としての役回りが増えたり、スタメンで出場をしても、必ず途中交代。レギュラーの座を掴みきれず、長谷川監督からは、相変わらず「縦への仕掛け」と「献身的な守備」を口酸っぱく言われ続けた。
長谷川監督「不満そうな顔を見せるけど」
「正直、ずっと納得していませんでした。でも、悔しがったり、反発しているだけじゃ、いつまで経っても成長できないし、誰の目にも止まらない。ドリブルで縦に抜けてクロスすることもずっと練習していましたし、守備をするべきところはDFラインまで戻ってボールを奪うことを意識してやるようになりました」
思ったことを口にしてしまう性格もあり、監督の指摘をどう受け止めていいかさえも分からなかった。だが、そんな廣澤を長谷川監督はこう分析していた。
「すぐに不満そうな顔を見せるし、反発してくるけど、練習はきちんとやっていたし、何より魅力的な能力と伸びシロを持っていたので理解してくれるまで言い続けた」
彼の性格と才能を見抜いて、真正面からぶつかり合ってくれたのだ。このやりとりが信頼関係を生んでいく。山梨学院大学への進学を決めた廣澤に、長谷川監督は毎日のようにこう声をかけていた。
「お前はアピールする場所が他の選手よりも少なくて、いろんな思いがあったと思う。結果的に大学は決まったけど、選手権で活躍して、プロから声がかかるようなことがあれば、山梨学院大所属の選手かもしれないけど、1年目から特別指定選手としてプロの世界でプレーする選手になればいい。だからこそ、これまでできなかった分、もっと自分をアピールしろ」
この言葉が廣澤の心にスッと入ってきた。同時に浮かんだのは「いつ、どこで、誰が見ているか分わからないぞ」という父の言葉だった。
「選手権で上位に行ったら間違いなく注目されるし、優勝すればさらに注目される。前回の大会では四日市中央工の田口裕也(ガイナーレ鳥取)選手と森夢真(アスルクラロ沼津)選手が大学を断って、プロからのオファーを得るために臨んでいたこともテレビで見て知っていた。自分も大学は決まったけど、ここで絶対に目に留まるプレーをするという覚悟が決まりました」