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大相撲PRESSBACK NUMBER
「国技館に悲鳴が…」「驚異の視聴率65.3%」伝説の横綱・千代の富士に、なぜ国民は熱狂したのか? 元NHK名物アナが「大将」と酒を酌み交わした夜
posted2025/04/04 17:01

横綱昇進が決まり、同部屋の力士たちに担がれる千代の富士(1981年7月、当時26歳)
text by

藤井康生Yasuo Fujii
photograph by
KYODO
40年にわたって大相撲中継の実況を担ってきた元NHK・藤井康生アナウンサー。“相撲中継の生き字引”とも評される名物アナが大相撲史をまとめた著書『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(東京ニュース通信社、2025年3月発行/発売元:講談社)から、全5回に分けて選りすぐりのエピソードを抜粋掲載します。千代の富士・後編では、驚異の視聴率を叩き出したウルフフィーバー絶頂の時代を振り返ります。昭和56年一月場所、大関昇進を懸けて横綱・北の湖との優勝決定戦に挑んだ――。【千代の富士編・全2回/前編から読む ※朝青龍vs白鵬の名勝負編も後日公開予定】
国技館に響き渡った悲鳴
14戦全勝でいよいよ千秋楽、横綱北の湖との対戦です。千代の富士は14連勝の時点で、すでに場所後の大関昇進はほぼ手中にしています。北の湖は13勝1敗、逆転優勝に望みをかけます。千代の富士が勝てば全勝優勝、北の湖が勝てば優勝決定戦にもつれ込みます。
これまでの対戦成績は、北の湖の7勝、千代の富士はわずか1勝です。今や断然人気の千代の富士が初優勝で大関を射止めるのか。日本中が注目する大一番でした。
立ち合い、千代の富士は左前まわしを狙いますが、北の湖得意の左四つとなります。千代の富士が右を巻き替えて双差しを狙いましたが、すぐさま北の湖も左を巻き替え左四つです。北の湖は大きな体でしたが、こうした器用さ速さを持ち合わせた横綱でした。北の湖はがっちり両まわしを引き、十分の左四つで向正面に千代の富士を吊り出しました。国技館には悲鳴が響き渡りましたが、この瞬間に両力士が14勝1敗で並び優勝決定戦です。
視聴率は驚異の65.3%
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決定戦でも、千代の富士は低く立って左前まわしを狙います。しかし右四つにはなれず、本割と同じように左四つです。千代の富士はすぐに頭を付けました。北の湖は左下手こそ引いていますが右の上手には届きません。それでも、北の湖が右から抱えて強引に出ます。千代の富士はしのいで、次の瞬間でした。
右の肘を締めて下に叩きつけるような渾身の上手出し投げ。さすがの北の湖も土俵中央にバッタリ崩れました。関脇千代ノ富士、初優勝。65.3%の視聴率を記録した瞬間でした。