“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
突然のオファーに「え、なんで俺?」選手権優勝、山梨学院“11番”廣澤灯喜はなぜポルトガルに行けたのか
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byNaoki Nishimura/AFLO SPORT
posted2021/02/22 17:01
選手権決勝・青森山田戦で貴重な先制ゴールを挙げたMF廣澤灯喜。大会中に大きな成長を見せたことで海外挑戦への道が開けた
「縦」を囮にして生まれたゴール
初戦から1分、1秒を無駄にしないためにも、廣澤は攻守においてがむしゃらに走り続けた。2回戦の鹿島学園戦では値千金の決勝弾を叩き込んでいる。
「気づいたら『縦に仕掛けるプレー』が僕の大きな武器になっていた。クロスと見せかけてカットインしてシュートだったり、カットインと見せかけて縦だったり、バリエーションが一気に増えている自分に気づくことができた」
反発をしながらも、真摯に取り組み続けた成果を大会中に実感したことで、自分の中で大きな自信が生まれていくのが手にとるように分かった。
「途中交代もあったし、ずっと出たいという気持ちはありましたが、監督の言う通りにプレーをしたら、どんどん結果がついてきたので信じて突き進もうと思えた」
左サイドで激しいアップダウンを続け、個でも打開できる廣澤の存在は、大会を通じて絶対的な存在となっていった。そして快進撃を続けたチームは決勝まで駆け上がった。
青森山田戦の12分、山梨学院の右からのカウンターの際、左サイドをロングスプリントした廣澤の元にグラウンダーのクロスが届く。
「ベンチには頼もしい選手たちがたくさんいるので、僕は後の事は考えずに全力で走ることを意識した。あの時も全力で走り切ったら、素晴らしいパスが来たので決めるだけでした」
左足の正確なファーストタッチから、右足でコントロールして、ブロックに来たDFの間を破る右足ミドルシュートを冷静に突き刺した。
靴紐が切れるアクシデントでも
その後、50分過ぎに踏ん張った瞬間にスパイクの紐が切れるまさかのアクシデントに襲われた。代わりのスパイクをピッチサイドで用意している間に逆転ゴールを奪われ、そのまま交代を告げられてしまった。それでも廣澤は以前のように感情に身を任せるのではなく、仲間を信じ続けた。
「正直、『なんでこんな大事な時に限って!』と思いました。でも、僕がピッチからいなくなって、10人になったせいで、僕のサイドから崩されて勝ち越し点を浴びてしまった。もう自分が交代したことよりも『お願いだから勝ってくれ』と仲間に願い続けていました。もし選手権前の僕だったら、『替えのスパイクがあるのになぜ代えるんだ!』と思っていたかもしれません」
廣澤の精神的な成長を、サッカーの神様が見ていたのだろうか。チームはPK戦の末に11年ぶり2度目の優勝を手にすることができた。そして、優勝に貢献した選手としてインパクトを残した彼のもとに、予想外のオファーが届いた。即決した廣澤は、決勝戦の約半月後にはもうポルトガルの地を踏んでいた。