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「もうこれは奇跡とは言わせない」
NHK豊原アナのラグビー愛と実況論。
text by
谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph byShigeki Yamamoto
posted2019/11/01 20:00
アイルランド戦の実況に、4年前と同じネクタイで臨んだというNHK豊原アナウンサー。時間を積み重ねてきたものを使うのがルーティンだ。
平尾さんから聞いたW杯への思い。
加えて大阪放送局時代には故・平尾誠二からW杯招致への思いを直接聞いていた。
「2004年ごろ、2011年大会の招致に向けたインタビューでした。当時、ゼネラルマネージャーだった平尾さんが『時期尚早だっていう人もいるけど、このぐらいの事をやらないと日本ラグビーは変わらないんだ』と。2019年にそれが実現され、実際に世の中が大きく動いた。
今回は日本ラグビーにとってもいろいろと繋がった大会だったと思うんです。個人的にも4年前の南アフリカ戦から続いて、アイルランド戦の実況を担当させていただき……。しがみついて、食いしばってやってきてよかったと改めて思いますね」
“低音”に悩みながらも授かった教え。
豊原はこれまでラグビーに限らず、野球、アメリカンフットボール、モータースポーツ、オリンピックでは柔道、アルペンスキーなど、あらゆる競技の実況を担当してきた。
スポーツアナウンサーとして確固たる立場を築いているように見えるが、ここまでの道のりは葛藤の連続だったという。
「私の声は“低音”なので音がこもりやすく、迫力が伝わりにくいんです。特に若い頃は歴代の先輩たちのように高音が伸びる、高揚感ある実況に憧れました。でも、次第にそれは自分の声では難しい、真似をしても出来損ないのコピーにしかならないと考えるようになったんです。30歳ぐらいからずっと試行錯誤してきました」
ただ、悩みながらもNHKの先輩から授かった教えだけは忠実に繰り返してきた。
「まず、『“経過”を伝えるだけなら誰でもできるよ』と教わるんです。いま、起きていることを受けてどれだけ先のことを想起してもらえるか、予測を立てて話をする。特にラグビーの場合は。次の展開がどうなるかをいかに解き明かすかが大事だと思うんです。ラグビーの本質であるボールを争奪する部分をきちんとお伝えしたいという意識を常に持って続けてきた結果が、こういう機会を頂いている今に繋がっているのかなとも思います」