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「もうこれは奇跡とは言わせない」
NHK豊原アナのラグビー愛と実況論。
text by
谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph byShigeki Yamamoto
posted2019/11/01 20:00
アイルランド戦の実況に、4年前と同じネクタイで臨んだというNHK豊原アナウンサー。時間を積み重ねてきたものを使うのがルーティンだ。
「ブライトンの奇跡」への違和感。
「『ブライトンの奇跡』という言葉が飛び交ったことに、少なからず違和感を覚えたんです。五郎丸(歩)さんが試合後の発した『この勝利は必然だ』という言葉のほうがしっくりきたというか。『現象には必ず理由がある』という言葉があるように、あの勝利は日本の準備があったからこその結果だと思ったんです。だから奇跡ではないと。
しっかりと上積みされた今回のアイルランド戦をまた『奇跡』と言われてしまうのが悔しい、何か強いメッセージとして残さなくてはいけないと思ったんです。4年前に比べて落ち着いて試合を見られていたと思います」
実況に臨むにあたって言葉を用意することはある。選手たちがピッチへ足を踏み入れるシーン、仲間とともに整列するシーンなど、その試合がどういう位置付けなのかを正確に伝える必要があるからだ。ただ「結果」に関して事前に揃えた言葉は使わない。試合にも、選手にも敬意を欠いてはいけないのだ。
「勝負の結果は誰にもわからないじゃないですか。アイルランド戦の最後にでた言葉は、4年前を見てきたからこそ、咄嗟に出てきた言葉だったと思います」
福岡堅樹のトライと姫野和樹のジャッカルで勝利が現実味を帯びた。そこから頭の片隅にはずっとブライトンの景色が思い浮かんでいた。
楕円球に魅せられ、追いかけた。
アナウンサーになる前からラグビーとは不思議と縁があった。
1987年の「雪の早明戦」でラグビーを知り、こんな世界があるのかと高校では楕円球を追いかけた。初めてのラグビーW杯はその仲間たちと見た1991年大会。あの早明戦に出ていた吉田義人が独走を見せつけたのもアイルランド戦だった。
NHK入局後に配属された佐賀放送局では、佐賀工業高校ラグビー部の取材を重ねた。五郎丸歩という天才はまだ入学する前のことだったが、4年前の実況では何度も名前を呼び、今回の中継で顔を合わせた時には昔話をすることができた。