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「怪物・江川卓を攻略せよ」なぜ広島商は作新学院に勝てたのか?「じつは首を寝違えて…」江川が達川光男に言った「お前には1球も全力で投げてない」

posted2025/03/30 11:04

 
「怪物・江川卓を攻略せよ」なぜ広島商は作新学院に勝てたのか?「じつは首を寝違えて…」江川が達川光男に言った「お前には1球も全力で投げてない」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

難攻不落の怪物・江川卓を広島商ナインはどう攻略したのか?

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安藤嘉浩

安藤嘉浩Yoshihiro Ando

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およそ半世紀前の1973年、作新学院の江川卓(当時17歳)が初めて甲子園のマウンドに上がった。ボールをバットに当てることすら困難な規格外のピッチング――「攻略不可能」と思われていた怪物投手は、なぜ準決勝で広島商に敗れたのか? 関係者の証言から、「江川が負けた日」の内幕を掘り下げていく。(全2回の2回目/前編へ)※文中敬称略

「このゲーム、お前らの勝ちだ」

 広島商監督の迫田穆成(よしあき)は「ストライクゾーンの上半分は捨てて、5回までに100球投げさせろ」と選手に指示した。作新学院の江川卓は珍しく制球が定まらない。広島商は2回に3四球を選んでいる。

 5回に1点を先行されたが、その裏、左投げ右打ちの佃が詰まりながらも右翼線にチーム初安打を落とし、すぐに追いついた。

 前年秋の新チーム結成以来、江川が続けていた連続無失点記録が139イニングで止まった瞬間だった。

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 5回が終わり、部長の畠山圭司が「江川の球数104球」と告げた。

「よし、このゲーム、お前らの勝ちだ」。迫田が選手に暗示をかけるように言った。

 試合は1対1のまま8回に。先頭の金光興二が自身3個目の四球で出塁して二塁盗塁を決める。楠原基がチーム2本目の内野安打で1死一、二塁。

 迫田が勝負に出る。ベンチから送ったサインは重盗、ダブルスチールだ。

 金光がスタートを切る。捕手から三塁への送球が高くそれる。金光が一気に本塁へ返り、これが決勝点となった。

 江川と金光は卒業後、法政大学でチームメートになる。「走るのはわかっていた。捕手に『投げるな!』と言ったんだけどなあ」と江川は金光にこぼしている。

「江川対策」として練習を重ねた秘策は、日の目を見ることはなかった。しかし、広島商が5度目の全国制覇を果たす同年夏に、この練習が生かされる。日田林工(大分)を下した3回戦。2回1死満塁から、広島商は2ランスクイズで逆転する。守備側のスキを突き、三塁走者に続いて二塁走者も一気に生還するプレーは、「江川対策の応用じゃった」と迫田は胸を張る。

「2点目のホームインを、NHKの中継カメラが追えてないんじゃ。なにが起きたか、分からんかったんじゃろ」。豪快に笑った迫田の顔が懐かしい。

【次ページ】 「雨にやられた」江川卓が明かした“敗因”

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