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「もうこれは奇跡とは言わせない」
NHK豊原アナのラグビー愛と実況論。
posted2019/11/01 20:00
text by
谷川良介Ryosuke Tanikawa
photograph by
Shigeki Yamamoto
実況席から見えた景色に、胸がいっぱいになった――。
ラグビーワールドカップ、日本vs.アイルランド。ジャパンにとって目標とする決勝トーナメント進出へ向けた大一番。スタジアムは赤と白のジャージで埋まっていた。
NHKの豊原謙二郎アナウンサーはこみ上げるものを必死に抑えながら、冷静に、丁寧に、仕事を全うした。
「もうこれは、奇跡とは言わせない」
19-12。日本の勝利が確定した直後、そう力を込めて言葉にできたのには理由があった。
2015年の南ア戦、実況時の心境。
2015年イングランド大会、ラグビー史上最大の番狂わせと呼ばれた南アフリカ戦。この試合の実況担当も豊原だった。
「4年前の南アフリカ戦は、どのメディアでも相当厳しい戦いになると予想される中で、少しでも日本に有利な情報はないかと縋るように探しました。“チャンスはある”と自分に言い聞かせていましたね」
だが、ジャパンが見せた戦いは予想を大きく上回るものだった。スプリングボクスのお株を奪う献身的なタックル、周到に準備してきたサインプレー、引き分けではなく勝利を目指して選んだスクラム。気付けばカーン・ヘスケスのランを「行けー! 行けー!」と後押ししていた。
いま振り返れば「感情がほとばしっていました」と本人は猛省するが、歓喜の場面ではあえて言葉を発さずに映像に委ね、会場の音をしっかりと届けた。
イングランドから遠く離れた島国にいるファンの思いを代弁する素晴らしい実況だったと思う。
ただ、豊原にはその試合でひとつ心残りがあった。