“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
首を振り続ける男・喜田拓也。
今のマリノスに必要な「深み」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/04/10 07:00
アンカーのポジションで存在感を発揮する喜田。快勝した浦和戦のプレーは「深み」を増していた。
「いじられキャラ」も健在。
喜田拓也というキャラクター、プレースタイルは高校時代から全く変わっていない。
高校1年生のころから取材を続けているが、当時から10代とは思えない落ち着いた雰囲気を持っていた。ピッチ上では常に全体を見渡しながらポジション修正を繰り返し、ボールを受けてはタメを作って周りに配給する。守備面でもハードワークできる選手だった。
オフ・ザ・ピッチのボキャブラリーの豊富さも彼の魅力だ。試合で起きたこと、考えたことを理路整然と語れる男なのだ。
'11年のU-17W杯メキシコ大会など、年代別日本代表の取材時では、何か試合であったことは真っ先に喜田に聞く。必ず明快な答えを返してくれるので、取材者の立場からすると有難い存在でもあったのだ。
当時から「いじられキャラ」としてチームの雰囲気を和ませる一面もあり、'11年のメキシコでは“シャイ”な植田直通とのコンビに何度か和ませてもらった。現在も横浜FMの選手たちの間で喜田の素の姿をこっそり動画撮影する「#今日の喜田さん」がツイッターをにぎわしている。
プロになってからも彼を追いかけているが、前述した通り、見た目も、プレースタイル、落ち着きも、受け答えも、いじられキャラも変わらない。
「深み」が増した喜田のプレー。
だが、今年に入って、その「不変」の中に醸し出される「深み」を感じる。
「(アンカーの役割は)ひと言では表せないのですが、ポジション的にボールを動かすことへの関与と正確性が求められます。守備面においても一番大事なところにいる。スペースを埋めたり、カバーリング、ボールにアタックするタイミング、奪取する力など、いろんなものが求められる。
それに、サッカーは1秒あれば状況が変わる。だからこそ常に状況を把握しなければならない。どんなに疲れていても、頭だけは絶対に休めないようにして、どこが危ないか、どこが有効か、相手は何を考えているのか、多くのことを察知するように意識しています」
認知、察知、分析。そしてこの3つを結びつける実行力。
常に首を振り、周囲の位置や精神的な状況、状態を瞬時に捉え、数あるプレーの中から1つを選択する。選んだら、迷うことなくそれを実行に移す。さらにそこに変化が生まれれば、状況に準じてプレーに切り替える。その精度が歳を重ねるごとに研ぎ澄まされてきたことが、熟成されたワインのように、彼の醸し出す「深み」につながっていた。