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御嶽海の優勝、その本当の価値は?
横綱大関が総崩れの「幸運と不運」。
text by
西尾克洋Katsuhiro Nishio
photograph byKyodo News
posted2018/08/08 10:30
入門からまだ3年、御嶽海の優勝は新時代の到来を告げるのだろうか。
曙の初優勝は実は地味だった。
だが、後に出世する力士の関脇での優勝は、必ずしもそうしたものばかりではない。上位の不振、時代の潮目という後押しがあったケースも少なからず存在している。
筆頭は平成4年5月の曙だ。
大関・横綱と昇進した時の怪物的な充実ぶりは、大相撲の新時代を期待させるものだった。目の前の力士を全て薙ぎたおす圧力に、他の力士はただ屈するしかなかった。今後は外国人力士が大相撲を席巻するのではないかという、別の意味での畏怖さえ覚えていたほどだ。
だが時代的背景を考えると、この時の優勝は照ノ富士のケースとは色合いが異なる。
まず、1横綱だった北勝海が場所前に引退を表明したため、横綱が誰も出場しなかった。さらに大関の霧島は初日から3連敗して休場、残る大関の小錦は9勝6敗。
曙を除く三役全ての力士が2桁勝利に届かないどころか、上位総当たりの番付にいる力士の中で2桁勝利に届いたのは前頭筆頭の三杉里だけという低調さだったのである。
御嶽海の強みは大きな怪我がないところ。
横綱大関の引退や衰えにより上位に空きが生まれると、台頭する力士が即座に出てくるというのも、大相撲の歴史の中で繰り返されたことだ。
関脇が優勝した際、12勝以上の横綱大関がいないケースは8例、11勝以上がいないケースは5例。御嶽海のように、時代の境目でチャンスを掴むというケースも珍しくないのだ。
御嶽海は時代に愛された力士だと私は思う。強い横綱や大関がいれば、地位を保つことさえも難しい。上位でチャンスを窺っていても、日々の激戦で体にダメージが蓄積する。まして御嶽海のスタイルだと、多くの場合膝に故障を抱えて輝きを徐々に失って現役生活を終えることが多い。
御嶽海の強みはその馬力もさることながら、ここまで大きな怪我をしていないところだ。そういうタイミングで優勝のチャンスを掴み、モノにできた。プレッシャーに押し潰される力士が後を絶たぬ中で、御嶽海はそれができたことはもっと評価されて良いと思う。