詳説日本野球研究BACK NUMBER
大型補強の陰で着実に進む育成路線。
ソフトバンクの“生え抜き”抜擢論。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNanae Suzuki
posted2014/05/10 10:50
昨年ゴールデングラブ賞を獲得したソフトバンク・今宮健太。川崎宗則が2012年にメジャーに移って以降、堅守のショートとしてスタメンに定着した。俊足であり、投手経験者として送球の正確さも持ち合わせる。
一方で、投手は移籍組の比重が大きい。
投手陣はどうだろう。現在、チーム防御率はオリックスに次ぐリーグ2位の2.82と好調を維持している。先発ローテーションは攝津正、中田、ウルフ、スタンリッジ、寺原隼人の順に回り、ローテーションの谷間を埋める形で東浜巨、帆足和幸、大場翔太が起用されてきた。先発8人のうち攝津、東浜、大場以外は他球団経由で、野手陣のところで誉めたスカウティングやファームのコーチングは今のところ脇に追いやられている。
リリーフ陣は五十嵐亮太、岡島秀樹、サファテの移籍組に、生え抜きの森福允彦、柳瀬明宏、嘉弥真新也、千賀滉大がうまく絡んでいるように見えるが、4月23日の日本ハム戦では4-9と大差がついた場面で千賀がリリーフ登板しているように、若手を育成する首脳陣の気概、という部分で物足りなさはあった。
昨シーズン前、圧倒的な戦力が話題を呼んでほとんどの評論家が1位予想する中、想定外のBクラス(4位)に低迷したソフトバンク。それが大型補強につながり、石橋を叩いても渡らない勝利優先の采配につながっているようだが、冒険心がわずかでもないと将来につながっていかないというのも事実である。
若手時代に、自らも抜擢を受けて飛躍した秋山監督。
秋山監督は西武ライオンズの若手だった'85年、広岡達朗監督の抜擢を受けてレギュラーポジションをつかみ、打率.252、本塁打40、打点93の好成績で表舞台に華々しく登場した。前年の'84年には同年齢の伊東勤(現ロッテ監督)がやはり広岡監督からレギュラー捕手に抜擢され、翌'86年には高校卒新人、清原和博が森祇晶新監督の抜擢を受けて126試合に出場、打率.304、本塁打31、打点78で新人王を獲得するほどの活躍を見せた。
投手陣は'85年に渡辺久信、工藤公康がともにシーズン8勝を挙げて一軍戦力に固定されているように、この時期の西武は西鉄、太平洋クラブ、クラウンライターと続いた暗黒時代からの脱却に懸命で、若手の登用が球団の合言葉のようになっていた。秋山監督はその頃の西武を当事者としてつぶさに観察し、チーム作りのイロハを一から学んだはずだが、現在のソフトバンクの選手起用には半分くらいしか反映されていない。