野球善哉BACK NUMBER
優勝候補が次々消え、ついに常総も。
深紅の優勝旗は東北へと渡るのか?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/08/20 12:15
常総ナインは自分たちの判断でマウンドに集まり、相談し、戦い方を決める。敗れたとはいえ、その大人びたプレーぶりは大会でも突出していた。
日本の頂点に立つべく成熟・完成していた常総学院。
常総学院の今年を象徴するのが、捕手二人制だ。
スラッガーの内田が背番号「2」を付けるが、正捕手は背番号「9」の吉成祐輔。内田は強肩ではあったものの、生粋の捕手というタイプでもなく、リード、キャッチングに課題があった。エースの飯田と中学時代からバッテリーを組んでいた吉成は、肩以外の部分で内田を凌駕し、監督から全幅の信頼を得ていた。
相手が足を生かしてくるチームなら内田がマスクをかぶり、そうでなければ吉成がかぶる。
1回戦は先発マスクが吉成だったが、2回戦では相手が機動力のある仙台育英だということで、内田がマスクをかぶった。そして、中盤にリードを奪うと、予定通りに吉成と交代した。
内田は捕手以外の時は三塁を守り、吉成は内田が捕手の時は右翼手につく。実は、チームのほとんどの選手が2ポジションを守ることができ、攻撃型、守備型と戦い方を変えることができるのが今年の常総学院だった。
常総学院は優勝候補のチームの中でも、ひと味もふた味も違うチームだった。分かりやすくいうと、大人びていた。試合中の作戦も、監督が選手に尋ねるほどで、守備においては伝令を待つことなく、選手からマウンドに集まることもしばしばだった。
この日の前橋育英との試合では、2回表に常総学院が幸先よく先制。相手の先発はエースの高橋光成ではなかったものの、6回にはそのエースを引きずり出していた。追加点を奪えていない物足りなさはあったものの、エースの飯田は好投を続け、2-0で迎えた9回裏をその流れのままに守るだけだった。
優勝候補と言われた学校が次々と敗退していった今大会。
今大会は、春・夏連覇を狙った浦和学院や強豪の日大三(西東京)が初戦敗退。仙台育英、安樂智大の済美(愛媛)や、夏の二連覇を狙っていた大阪桐蔭などの優勝候補がベスト8を待たずに大会を去った。4季連続出場の鳴門(徳島)、夏制覇の経験もある強豪・明徳義塾(高知)もこの日に敗退している。
こうなると、もはや今大会は常総学院のものであるかのように思えた。
そんな中で、9回裏2死からドラマが起こった。イレギュラーが招いた失策からの逆転劇に、今大会の不気味さを感じずにはいられない。