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猛牛のささやきBACK NUMBER
「本当は山川選手を抑えたかったですけど…」オリックス日本一“陰の立役者”が振り返る「防御率0.00で現役引退」決断の理由とラスト登板の舞台裏
text by

米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byHaruka Sato
posted2025/03/26 11:02

現役時代を振り返ったオリックス・比嘉コーチ
対戦したくなかった「大阪桐蔭の3人」
比嘉が対戦したくなかったバッターとは。
「嫌なバッターばっかりでしたけど(苦笑)。右バッターが多くて、おかわりくん(中村剛也)だったり、浅村(栄斗)選手、中田翔選手。大阪桐蔭の3人ですね(笑)。山川(穂高)選手も嫌だし。やっぱり自分のタイミングでしっかり振るバッターは嫌ですね。何回も対戦して、三振も取ったけど、ホームランも打たれた。『嫌だな』と心が揺れた時、ビビった時にやられたんじゃないですかね。
だからマウンドに上がったら、自分にできることに集中する。やっちゃいけないことだけ頭に入れて。例えば1アウト三塁で行ったなら、外野にドーンと行かれる球はダメ。ゴロを打たせる球を投げたい。ゴロが抜けてヒットになったら、それはもうしょうがない、やることやったよね、という感じです。結果は考えないようにして。だって5分後のことは誰にもわからないじゃないですか」
「最後の登板」の舞台裏
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点を与えないことが目的で、その中で割り切れるところは割り切る。現役最後の登板にも、そんな比嘉らしさが表れていた。
現役引退を発表した翌日の9月16日のソフトバンク戦、0-1の8回表2アウト二塁。打席には同じ沖縄県出身の山川。ベンチでチームメイトが作った花道を、膝の痛みも感じさせず駆け抜けてマウンドへ向かうと、スタンドから万雷の拍手で迎えられた。
山川を打ち取って締めくくれば、美しいエンディングとなる。だが山川に対してはカウント3-1から、四球を与えた。
「1点もあげられないところだったんで。本当は山川選手を抑えたかったですけど、一塁が空いているのは頭にあった。カウントが悪くなったんで、もうしょうがないなって。長打は嫌だったんで。フォアボールは残念でしたけど、点を取られるよりはいい。(球場中が)すっごいため息でしたけど(苦笑)」
勝利のために腕を振って
あくまでもチームの勝利のために。そして次打者の中村晃をライトフライに打ち取り、この日も無失点でマウンドを降りた。
「どうにかアウト1つ取ろうと思っていたので、本当、抑えられてよかったです」
現役ラストイヤーは5試合に登板し、防御率は“0.00”だった。(つづく)
