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届かなかった1勝…“パ・リーグ最多勝投手”伊藤大海がこだわる新庄監督との“果たせなかった約束”「監督ってポジティブにさせる天才なんです」
posted2025/04/01 11:02

14勝をあげ最多勝に輝いた日本ハムの伊藤大海。だが、新庄監督との「約束の15勝」にはあと1勝届かなかった
text by

酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
Hideki Sugiyama
伊藤大海の心に刻まれた「15勝」
「今年、最低15勝。約束ね」という新庄の言葉を伊藤はいつ、どういう状況で告げられたのかまったく憶えていない。
だが、その瞬間から、心にはくっきりと「15勝」が刻まれた。
「前の年に10勝していたとはいえ、まだプロ2年目の最初の頃に言われたので『いや、15勝なんて……』っていう感覚はありました。正直、実力的にも体力的にも、まだまだ狙っていきますとは言えない、そんな感じでした。でも、そのときは理解できなくても、監督の力でだんだん理解できるようになりました。監督って、選手をポジティブにさせる天才なんです」
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普段、伊藤は新庄と言葉を交わすことがほとんどない。周りと比べてもかなり少ないという。だが、時折、交わす会話の一つひとつが伊藤の肥やしになっていった。
なかなか勝てなかった2023年。あるとき、責任を感じた伊藤は新庄に頭を下げた。
「次は頑張ります」
すると、新庄が諭すように制した。
「頑張らなくていい。たのしみなさい」
プロ野球は敗者が淘汰される厳しい世界である。必死に勝ちにいき、歯を食いしばって自らが生きる場所を奪いにいくのが当たり前だろう。だが、この監督はまた心に波紋が広がるような石を投げ込んでくる。伊藤は自問自答した。楽しむ? なんか違う、プロフェッショナルじゃない……。
新庄監督がいう「たのしむ」の真意
新庄から送られてくるインスタグラムのダイレクトメッセージ(DM)にも同じ言葉が書かれていた。
《たのしむ》
伊藤は言う。
「監督はだいたい、ひらがなで送ってくるんです。それもわざとなのかなと僕も勝手に思ったりして……」
伊藤はスマートフォンで「たのしむ」を漢字変換してみた。「楽しむ」と出た。やっぱり違う。次に出てきたのが「愉しむ」だった。この字を見て、ようやく腑に落ちた。