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猛牛のささやきBACK NUMBER
「本当は山川選手を抑えたかったですけど…」オリックス日本一“陰の立役者”が振り返る「防御率0.00で現役引退」決断の理由とラスト登板の舞台裏
text by

米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byHaruka Sato
posted2025/03/26 11:02

現役時代を振り返ったオリックス・比嘉コーチ
手術して、翌年復帰するという選択肢はなかったのだろうか。
「この歳で手術して、本当に6カ月後、次の春から投げられるのか不透明だし、球団としても若返ってきていますし。もうそろそろかな、って感じで」
引退を決断した。
「なぜか残ってきた」と語る野球人生
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「僕はすごく珍しいタイプだと思うんですよ」と比嘉は笑う。
「タイトルを獲ったこともなければ、オールスターに出たこともないのに、40過ぎまでやるって。他にあまりいないんじゃないですか。ほとんどの人がレジェンドだと思う。
僕は入団するのも遅かったし、毎年のように怪我したんですけど、本当にいろんな縁のおかげで、その時その時の監督、コーチの方に使ってもらって、なぜか残ってきたって感じですね(笑)」
謙虚にそう語るが、比嘉もオリックスのレジェンドだ。チームの命運を左右するようなピンチの場面でマウンドに上がり、火を消し続けた。特に存在感が際立ったのは、2022年の日本シリーズだった。
「26年ぶり日本一」陰のMVP
第1戦の5回裏に、エース山本由伸(現ドジャース)が左脇腹の違和感で緊急降板する非常事態でマウンドに上がると、危なげなく3アウトを取り、チームの動揺を鎮めた。このシリーズでは7試合中5試合に登板し、許した安打はわずかに1本。得点圏にランナーを背負う場面でマウンドに上がりながら1人も還さず、26年ぶりの日本一の、陰のMVPと言ってもいい働きだった。
見ているだけで心臓がキュッとなりそうな場面でマウンドに上がり続けた比嘉のメンタルはどうなっていたのか。
「一番緊張するのはブルペンで、マウンドに上がっちゃえばもう『行くしかない』という気持ちになっていました。とにかく、自分ができること、自分がコントロールできることに集中しようと。
ブルペンでは心が揺れる時もあるんですけどね。あのバッターと対戦したくないな、あの球場で投げたくないな、あの審判嫌だな、雨降ってるの嫌だな、とか、浮かぶんですけど、『いや、ダメダメ』って打ち消しながら(苦笑)。本当に自分がコントロールできないところは考えてもしょうがないんで」