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猛牛のささやきBACK NUMBER
「あ、もう終わった…」オリックス・比嘉幹貴の野球人生を変えた12年前の「悪夢の開幕戦」2日連続サヨナラ負けから切り拓いた“火消し職人”の道
posted2025/03/26 11:03

ピンチのマウンドを何度も救った「火消し職人」の比嘉
text by

米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Naoya Sanuki
厚澤和幸投手コーチは、探し続けていた。
「今チームに必要な、ランナーがいる場面で1アウトを取れる選手を探しているんです。なぜかと言うと、比嘉がいなくなっちゃったから」
唯一無二の存在だった比嘉
オープン戦が始まると、ランナーを置いた場面であえて投手を交代した。例えば、3月4日の楽天戦では5回に本田圭佑、6回に小野泰己。5日の楽天戦では7回に村西良太が送り出された。
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5日の試合後、厚澤コーチはこう明かした。
「今日、村西をランナーありのところで出しました。博志を代えなくていいところで代えて。この前の本田圭佑、小野もそう。あえてランナーがいるところで出しているんです。誰に適性があるかを見るために。一生懸命探してるんですけど、今のところまだ誰も答えを出してくれていない。まだ引き続き探します」
それだけ比嘉が唯一無二の存在だったということだ。
決して剛速球があったわけではないが、比嘉には打者を狂わせる投球術と制球力、そして逃げない心があった。
「ストライクゾーンに投げる」こだわり
失敗できない場面でマウンドに上がり続ける中で、比嘉が大事にしていたことは「ストライクゾーンに投げること」だと言う。
「ビビってボールボールにしたくなかった。どうにか1ボール2ストライクを作りたいので、初球からストライクゾーンに投げ込んでいく、ということは続けていました。思いきり腕振ってストライクゾーンに投げたら、バッターもずれるだろうし、見逃すかもしれないし。
難しいんですけどね。データでは、ファーストストライク率が高いほうが抑える確率は高いけど、中継ぎは、場面によってはポンポンストライクを投げるわけにもいかない。ボールから入って誘ったり、インコースにボールを投げたりということも必要。でもそういうのもひっくるめて、僕はもう『ストライクに投げてしまえ』と思っていた(笑)。
2アウト満塁の場面で出て行って、初球を長打にされて全員還ってきた、みたいな経験も何回もしました。『なんでお前、初球にスーッとストライク投げるんだ』というご指導も何回もいただきました。そこはもちろん反省しつつ、でも次の試合、ボールボールになるのは嫌なんで、心の整理をして『大丈夫だ』と思って、毎試合ストライクに投げた。ちゃんと体のキレがよく、しっかり腕を振ったら、甘くてもそんなに打たれない感覚があったので。振り返ると、打たれる時はぬるく入った時だから」
忘れられない「あの試合」
ストライクゾーンにこだわったのは、痛すぎる教訓があったから。