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天才・武豊55歳の“知られざる伝説”「一度会っただけなのに…じつはスゴい記憶力」鋼のメンタルの秘密も「他人の期待以上に、自分に期待する」 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

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photograph byTomohiko Hayashi

posted2024/09/28 11:07

天才・武豊55歳の“知られざる伝説”「一度会っただけなのに…じつはスゴい記憶力」鋼のメンタルの秘密も「他人の期待以上に、自分に期待する」<Number Web> photograph by Tomohiko Hayashi

1990年代後半から2000年代にかけてキャリアのピークを迎えた武豊。写真はスペシャルウィークで制した1999年の天皇賞・秋

 そんな彼と一緒に、10年、20年前のレースリプレイを見ると、驚かされる。彼が画面を見ながら、「このあと○○さんが鞭を持ち替えるから、ぼくは手綱を引いて外に出して……」と言ったとすると、そのとおりに映像が動く。さらに、彼が「あのときは○着ぐらいで」とか「上がりは○秒くらいで」と、うろ覚えのような言い方をしても、それらの数字はかなりの確率で合っている。

 同じレーサーでもモータースポーツなどと違い、乗り物が、意志も感情もある生き物だから、「柔軟性のある記憶力」が求められるのである。

 彼は、最近になってスマートフォンを購入したことがニュースになるほどのアナログ人間として知られているが、それは、かつて「歩く競馬四季報」と呼ばれたほどの並外れた記憶力や思考回路が、異なるシステムやデータベースとバッティングしてしまうからではないか、と個人的に推測している。

「馬の呼吸を意識して乗る」名手の極意

 2003、04、05年と3年連続で年間200勝を突破した武も、若手時代は、かつて岡部幸雄氏が1987年に記録した年間138勝の最多勝記録をなかなか超えられずにいた。130勝台に終わった年が、1989年から95年までに5度もあり、93年はあと1勝の137勝だった。

 その「壁」を96年に突破して159勝を挙げると、翌97年は168勝、98年は169勝、99年は178勝と自身の最多勝記録をどんどん更新していった。

 高かった「壁」を崩すことができたのはなぜかと問うと、彼はこう答えた。

「馬の呼吸を意識して乗るようになったころから、勝ち鞍が増えはじめたんです」

 馬は、走るとき、1完歩に1回呼吸している。短距離走であっても呼吸を止めているわけではない。

 武が、馬の呼吸を意識して具体的にどうすれば馬の走りが変わるのかも聞いたのだが、それは企業秘密のようなものなので、私はどこにも書いたことがない。

 ただ、以前、スポーツ紙に次のような若手騎手の言葉が紹介されていた。

「武さんは、馬が息を吸ったときと吐いたとき、どっちのタイミングで追い出したらいいかまで考えて乗っている」

 馬の呼吸まで意識して騎乗している騎手が、はたして世界にどれだけいるだろうか。

【次ページ】 55歳になっても「昨日の自分よりいい騎手に」

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