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天才・武豊55歳の“知られざる伝説”「一度会っただけなのに…じつはスゴい記憶力」鋼のメンタルの秘密も「他人の期待以上に、自分に期待する」 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

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photograph byTomohiko Hayashi

posted2024/09/28 11:07

天才・武豊55歳の“知られざる伝説”「一度会っただけなのに…じつはスゴい記憶力」鋼のメンタルの秘密も「他人の期待以上に、自分に期待する」<Number Web> photograph by Tomohiko Hayashi

1990年代後半から2000年代にかけてキャリアのピークを迎えた武豊。写真はスペシャルウィークで制した1999年の天皇賞・秋

「ぼくは、成績が落ちたからといって引退することは絶対にありません。辞めるときは、馬に乗れなくなったときか、まったく騎乗依頼がなくなり、JRAから『もう引退しなさい。免許の更新はできない』と言われたときだけです」

 しかし、今は、彼が乗れる限りは騎手をつづけるであろうと誰もが思っている。それができる体を、医療やトレーニング理論の進歩によって維持できるようになったことも大きいだろう。

 次に、厳密にはフィジカル面と切り離して論じることはできないのだが、騎手に必要な頭脳やメンタル面を見ていきながら、武のアンチエイジングについてさらに考えてみたい。

一度会った相手の名前と顔を…類まれな記憶力

 武はとにかく頭がいい。特に記憶力は驚くほどだ。

 1990年代終わりのことだった。暮れから年明けにかけて、アメリカ西海岸のサンタアニタパーク競馬場に遠征していた彼が、現地のブラッドストックエージェント(馬の仲買人)らと夕食をともにした。そこに、前年も一度だけ一緒に食事をした、前出のエージェントの友人がいた。馬主などの関係者ではなく、武の業務のうえでは(失礼な表現になるが)さほど重要ではない相手だった。向こうもそれは承知で、「武さん、昨年お会いした……」と恐る恐るといった感じで挨拶すると、武は「ああ、○○さん、お久しぶりです」と名前も顔も覚えていて、相手を感激させていた。

 武は間違いなく、それと同じことを、馬に対してもやっている。半年ぶりや1年ぶりに乗った馬でも、いいところだけではなく、悪い癖や、馬群を怖がるかどうか、キックバックを気にするかどうかなどを正確に記憶していて、例えば、その馬が左にもたれようとしたらその前に手綱を引いて、「お前が何をするのかお見通しなんだよ」と伝えたり、欠点が修正されているかどうかをパドックや返し馬で確かめたりしながら、いいところを引き出してやろうとする。

【次ページ】 「馬の呼吸を意識して乗る」名手の極意

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