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「痛めた手で涙する仲間を」東海大相模・原辰徳に勝った翌日…“甲子園で365戦実況”83歳アナが忘れない“鹿実アイドル”定岡正二の去り際 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2024/08/22 11:25

「痛めた手で涙する仲間を」東海大相模・原辰徳に勝った翌日…“甲子園で365戦実況”83歳アナが忘れない“鹿実アイドル”定岡正二の去り際<Number Web> photograph by JIJI PRESS

鹿児島実業時代の定岡正二(左)。いわゆる“甲子園アイドル右腕”の1人だ

「防府商業の走者が二塁に出て、堂園投手が後ろを向いて牽制球を投げた。これが高めに浮いて内野手が捕れずにセンターに抜けました。もちろんセカンドランナーは三塁を回った。センターの森元峻選手がバックホームしようと前進してきましたが、やや腰が高くてトンネルしてしまい、防府商業がサヨナラ勝ちしました。私は確か、トンネルした森元選手の『背中が泣いている』、と言ったと思いますが——結局、鹿児島実業は敗れました」

 島村さんはこの時に、今も忘れられない光景を見た。

「鹿児島実業が三塁側のベンチから甲子園を去るときに、森元選手はもう泣き崩れてヨレヨレになって歩いているんですね。その森元選手を、右手を痛めた定岡投手が、左手で肩のところを抱きかかえて一塁のベンチ横へと退場していきました。これをカメラマンがずっと撮っていた。定岡選手の痛めた右の手のひらと、森元選手の肩を抱いた左手をずっと映像で追いかけていたんです」

「悔しさ、無念さ」も甲子園の素晴らしいところなんです

 いい絵を撮ってくれた——と当時のNHKのカメラマン、ディレクターに今も感謝しているという。それと同時に83歳の今もなお変わらない思いを刻んだ瞬間だった。

「勝ったチームの選手たちの喜びだけでなく、負けた選手が去っていくときに見せる『悔しさ、無念さ』も甲子園の素晴らしいところなんですね。今年も、甲子園ではいろんなドラマが繰り広げられていますが、私が高校野球、甲子園と言えば、今も浮かぶのはこのシーンなのです」

 半世紀前の甲子園のドラマが、今もありありと浮かんでくる。名アナウンサーは、今も健在なのだった。

<第1回からつづく>

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「当初は嫌で嫌で…」“ダメな新人アナ”が高校野球実況に目覚めた“伝説エースの岡山決戦”「平松政次さんと森安敏明さんの投げ合いです」

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