甲子園の風BACK NUMBER
大社の大応援と馬庭優太封じ…「甲子園の魔物は自分の心が作る」記者が聞いた神村学園・小田大介監督41歳の本音「正直すごい圧力。でも」
posted2024/08/21 06:00
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Hideki Sugiyama
甲子園に姿を現そうとする魔物を退治するようだった。神村学園の小田大介監督(41歳)は両手をメガホン代わりにして、ベンチからマウンドに向かって“呪文”を唱えていた。
「大丈夫、大丈夫」
魔物を呼ぼうとする大社の応援と観客の大声援にかき消されないように声を張り上げる。必死に叫ぶ指揮官の言葉に、マウンド上の早瀬朔(はやせ・さく)投手が気付く。小田監督と目を合わせてうなずいた。
大社への大応援…「自分への応援と捉えて力に」
9回裏、聖地は大社の攻撃を後押しする拍手と声援で包まれていた。早瀬は1死から内野のエラー、内野安打、死球で満塁のピンチを招く。6点リードしているとはいえ、甲子園の魔物登場を感じさせる不気味な空気が漂う。
奇跡を期待する観客のボルテージが上がっていく。プレッシャーで押しつぶされかねない場面。だが、早瀬は楽しんでいた。大社のアルプスから聞こえる応援のリズムを自分の体に刻んでいた。
「相手への応援がすごいのは試合前から分かっていました。自分への応援と捉えて力に変えようと思っていました。それに、神村学園のアルプスからの声援や拍手も聞こえていたので力になりました」
早瀬は大社の4番・高梨壱盛選手を併殺打に打ち取る。大声援をため息に変えた。
甲子園の魔物対策「県大会、あえて全校応援をつけず」
大社のアルプス、さらに大社ナインに魅了された観客の応援は相手チームの脅威となっている。3回戦で大社と対戦した早実はリズムを崩し、甲子園の魔物に呑み込まれた。だが、神村学園の小田監督は魔物の存在を否定する。
「甲子園に魔物はいません。相手への応援が圧力となって自分の心に襲い掛かるから魔物になるんです。魔物を作り出すのは自分自身の心だと思っています」
小田監督は選手たちに“魔物の正体”を説いた。そして、相手の応援を自分の力に変える心の強さを身に付けるように繰り返してきた。
そのために、入念な準備を進めてきた。