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金足農で起きた「部内暴力の発覚」「まさかの定員割れ」一変した野球部…吉田輝星の同期(現コーチ)「変わりました。オラオラ系は一人もいない」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKei Nakamura
posted2023/11/25 11:00
あの旋風から5年、金足農業の今を取材した
暴力問題が発覚した後、金足農業高校野球部OB会の副会長を務める長谷川寿は、時代と乖離した母校の未来に危機感を覚えずにはいられなかった。長谷川は1984年夏、金農が甲子園でベスト4入りしたときの捕手であり、主将でもあった。高校卒業後は青山学院大、ホンダと、アマチュアの名門チームでプレーしている。
長谷川が事件当時を振り返る。
「近年、金足農業は定員割れが続いている。そんな中、こういう事件が起こると、ますます中学生から敬遠されてしまう。もう、精神野球とかじゃなくて、きちんとした理念をつくらなきゃいけない時期に来ている。伝統だから、金農だから、ではなくて、当たり前になっていることをもう一度、見直そうよ、と。たとえば『雑草軍団』というニックネームも、おそらく今の選手たちは意味もわからずに押し付けられていると思うんです。だったら、いっそのこと、そんな呼び方もなくしたっていい。坊主頭もそう。なんで坊主にしなきゃいけないのか。理念がないのなら、もう伸ばしたっていいじゃないですか」
金農はどうなるのだろう…
この夏、甲子園では「エンジョイ・ベースボール」を掲げる慶応が優勝した。絶対的な指導者にやらされるのではなく、自ら考え、自らの意志でプレーする野球。試合中の柔らかな表情。サラサラなヘア。そして、スポーツと学問を高レベルで両立させる教育環境。いずれも、これまでの野球強豪校にはなかったイメージだ。
いろいろな価値観があってしかるべきだが、少なくとも、慶応が示した野球は高校野球の古い体質に対するアンチテーゼであり、一つの答えでもあるように思われた。これをきっかけに頭髪等、高校野球は加速度的に変化していくに違いない。
そんな革命的と表現してもいい優勝校が出現したこの夏、ずっと頭の片隅で小さく明滅していた思いがある。
金農はどうなるのだろう――。
〈つづく〉