野ボール横丁BACK NUMBER
「コーチに喧嘩腰」「上下関係は絶対」あの金足農が揺れた“改革プロジェクト”の裏側「次の年に吉田大輝が入学…そのタイミングで事件が」
posted2023/11/25 11:01
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kei Nakamura
5年前の夏、甲子園で準優勝を果たした金足農業。近年は低迷が続き、昨夏は上級生の下級生に対する暴力が明らかに。3カ月の対外試合禁止処分も下された。そんな金農が今秋、23年ぶりに秋田県大会を制覇。カナノウ旋風から現在まで、何があったのか――。ノンフィクション作家・中村計氏が取材した。〈全4回の#2〉
◆◆◆
金足農業を初めて訪れたときの衝撃は、今でも忘れることができない。金農には「声出し」と呼ばれる伝統的所作がある。気合いが入ってないとき、指導陣から「声出し!」の声が飛ぶ。すると、その場で正座し、片手を上げ、上空に向かって一心不乱に声を張り上げ続けるのだ。
正直、見てはいけないものを見てしまったかのような思いにかられた。あまりにも前時代的だし、もっといえば狂信的にさえ映った。
5年前の快進撃…当時メンバーの言葉
だが、声出しをやらせたコーチの秋本元輝は、そんなことは百も承知だった。
「こんなことをしたって、野球はうまくならないですよ。でも、非合理的だとわかっていながらやる。金足は、これでいいんです」
2018年夏、金農は秋田大会から甲子園決勝までの全11試合を9人しかいない3年生だけで戦った。彼らは特別な9人では決してない。学校に通える範囲の近隣地域から集まった9人に過ぎない。まさに「雑草軍団」だった。
秋本は続けた。
「能力が高い選手は、自主性を尊重した方がいいのかもしれません。でも、金農は強制があって、はじめて自主性が出てくるという考え。ただ、強制はしますけど、その中で収まってちゃダメなんです。そこを抜けたとき、違う世界が開けてくる。そういうものがないと、うちは勝てないと思うんです」
準優勝時のメンバーたちは、気が違ったかのように1本1本、声を発しながらメニューをこなしていた。ときに暴言スレスレの言葉を吐き、指導者たちとケンカ腰でやり合った。
チームの大黒柱だった吉田輝星もこう語っていたものだ。