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総合格闘家と銀行頭取による異色の対談が実現。目標、挫折、プレッシャー…をテーマに彼らは何を語り合ったのか?
posted2024/04/19 11:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
プロジェクト第1弾に登場しているのが幼少期から格闘技を始め、歴代日本人最年少となる19歳で世界最大の総合格闘技団体UFCに出場した総合格闘家の井上直樹選手。現在は横浜に拠点を置いてRIZINを主戦場とする彼は再びUFCの舞台に立つことを目指している。横浜銀行の片岡頭取と井上選手による異色対談。夢、目標に向かう「ツヅク、ツナゲル」をテーマに語り合う――。
片岡 「ツヅク、ツナゲル」プロジェクトは競技人口がそう多くないスポーツにおいて個人で真摯に挑戦を続けているアスリートにフォーカスして、応援していきたいと思って始めたものです。夢を信じて目標に向かって挑戦を続けることは、意志がないとできないし、簡単ではありません。またその姿を通じてビジネスパーソンも学べる部分が多々あると思っています。我々がハブになって、お客さまはもちろんのこと若い人たちや当行の行員たちにも発信して繋げていきたい。厳しい世界で挑戦しているアスリートの第1弾として今、横浜を拠点に総合格闘技と向き合っている井上選手に声を掛けさせていただきました。
井上 本当に光栄です。小学生のころに空手を習い始めてから格闘技をやってきて20年。続けていくことの大切さというものを、このプロジェクトを通じてあらためて感じています。中学校の卒業式で1人ずつ夢を言わなくちゃいけなくて、僕は総合格闘技でチャンピオンになるとみんなの前で伝えたこともあって、それが大きな目標になり、努力を続けるための糧にもなっています。
片岡頭取の小さなころの夢は“戦場カメラマン”
片岡 井上選手のように小さいころから挑戦しているものをきちんと続けて、夢、目標を実現しているっていうのは素晴らしいこと。私自身小学生のころ、戦場カメラマンになりたいと思った時期もありました。でも夢や目標というのは段々と変わっていくんですよね。私を含めてそういう人がほとんどだと思うんです。だからこそ継続して真摯にやり続けている井上選手の姿勢に対して尊敬の念を持ちます。
井上 ほかになりたいものがあったら経験したかったなという思いもあります(笑)。でも小さいころから格闘技をやってきて、ほかを考えたことがありませんでした。僕にとっては朝起きて歯を磨いて、ご飯食べてっていうのと一緒なんですよね。生活の一部になっていて、毎日格闘技のトレーニングをするのが日常になっていました。
片岡 それは本当に格闘技が井上選手にマッチしたって事ですよね。ゴルフやほかの競技でもよく聞きますが、ご両親の影響から夢や目標に向かって打ち込むようになったアスリートも少なくないはずです。井上選手はどうだったのでしょうか?
井上 僕の場合、両親の影響は特になくて、自分からやりたいと言いました。当時のコーチから「UFCに行くぞ」と言われて、それが僕の目標になりました。実際19歳のときに契約できて、そののち自分の階級がなくなったこともあり、リリースとなりましたが、変わらずUFCに挑戦したいという思いは持っています。ずっと格闘技をやり続けられているのは、達成感みたいなものも関係しているとは思います。アマチュアの試合であっても負けたら悔しいし、悔しいから勝つためにこうしたほうがいい、ああしたほうがいいって考えるので。そして覚悟を持って試合に臨んでいって勝利できると、あの練習が良かったとか達成感を覚えます。だからまた次もやりたいって繋がるような気がします。
片岡 井上選手の場合は勝敗が目に見えますし、特にプロスポーツは結果がすべての世界。我々のように企業は結果もそうですが、それまでのプロセスも重視されます。銀行員でありつつラグビー日本代表監督を務めた宿澤広朗さんが「勝つことのみが善である」という言葉を座右の銘にされていましたが 、真の意味は、自分が決めたことに対して必ず成し遂げる、目標に対して絶対にやり切るんだという強い覚悟だと私は解釈していて、私自身もずっと意識してきました。井上選手の話をうかがうとやっぱり覚悟を持って、努力していくことが大事なんだなって思いますね。
井上 頭取がおっしゃるように、プロは結果が全てです。日々の練習をプロセスとすれば、それを他の人に見てもらう、知ってもらう機会はまずありません。試合で結果を出すことではじめて練習の成果を示せるし、周りから認められて次のステップに進んでいくことができますから。
片岡 本当に厳しい世界ですね。その努力やプロセスをなかなか伝える場もないと感じます。だから少しでもこのプロジェクトで発信できたらいいなっていう思いもあって、そういった姿勢に共感した人が、何かに挑戦するきっかけや勇気になればいいですよね。
井上 そう言っていただけると、うれしいですね。