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ぶら野球BACK NUMBER
「ボクは巨人に捨てられた」中日へまさかの電撃トレード「星野監督は評価してくれた」“ドラフト外のエース”が年俸8500万円に倍増させた逆転劇
posted2024/05/04 11:04
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph by
KYODO
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「ボクは巨人に捨てられた」
<巨人ドラフト外からエースに成り上がった“一匹狼”西本聖。1988年オフ、中日ドラゴンズへのトレード移籍が決まる。>
巨人で通算126勝を挙げた西本に加茂川重治を加えた、中尾孝義との2対1の交換トレードだ。一瞬、同期の定岡のように「移籍拒否しての引退」も頭をよぎった。巨人への愛着と未練があった西本は藤田監督のもとを訪ね、「来年は二ケタ勝つ自信があります」と訴えるも、「チームには実力のあるキャッチャーが必要だ。過去に(ライバル球団間で)これだけの大型トレードはなかった。球界の発展のためにも分かってくれ」と理由を説明された。しかし、頭では理解できても、感情の整理がついていかない。西本は中日入団発表を終えた直後に収録された「週刊ベースボール」1988年12月26日号のインタビューで、古巣への本音と新天地での手応えを語っている。
「はっきりいって14年前に18歳で巨人に入団したときよりも、緊張しましたね。ボクは巨人から捨てられたわけですよ。藤田さんはボクの力を必要としなかったわけです。ところが、星野監督は評価してくれた。これから、野球を続けていく上で、このときの気持ちを大切にしていきたい」
実際は他の選手のように電話ではなく、湯浅武球団代表が西本の自宅を訪ねてトレードを直接伝えたように、巨人側も功労者に対して誠意は見せていた。だが、恩師の長嶋茂雄に電話をかけると、「その悔しさを忘れるんじゃないぞ! 必ず見返してやれ! それが男だ」と激励され、西本のハートに火がついた。
「まだまだいけますよ。今年1年、ずっと鍛えてきましたからね。そりゃ、2年くらい前だったら、ヒジもあまりよくなかったし、自信なかったですよ。でも今はベスト。今年の後半なんて、ものすごくいいボールを放ってたんですから」
いざ、「打倒江川」から「打倒巨人」へ。西本はライバル江川不在の心の空白を、自分を出した巨人を見返すという新たな目標へと切り替えた。
ゴルフも麻雀も…“一匹狼”が変わった
闘将・星野仙一は、1987年の開幕戦で自チームの落合博満に対して、臆することなくシュートで内角を抉り、3本の内野ゴロに抑えた西本の気迫を買っていた。巨人ではワガママと揶揄されたキャンプでの自己流調整も中日では許可される。