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WBC代表・湯浅京己に「もう投げさせへんよ」…藤浪晋太郎も罹った“阪神病”を許さなかった岡田監督の英断《OBエモやんが考える》岡田阪神“強さのワケ”
text by
江本孟紀Takenori Emoto
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/10/30 11:01
一見すると非情にも見える決断を下すことも多い岡田監督。阪神OBの目にはそのプロ意識が英断に見えるという
それが6月以降は改善され、勝利の方程式を担うようになった。もともとアスレチックスは、優勝はおろかワイルドカードに入る目すらなく、ぶっち切りの最下位だったから、あれやこれや、いろいろなことが試すことができたというのも、彼には追い風になった。
私は以前からずっと、藤浪にアドバイスをするなら、こう言えばいいと考えていた。
”阪神病”の藤浪には「一心不乱に投げること」が必要…?
「四球を4つ出したって1点で済む。お前さんの球威とキレがあれば、そう簡単に打たれっこない。コントロールがどうとか、いっさい考えずに、ミットだけ見て、思い切り腕を振って投げるんだ」
藤浪は高校時代、甲子園で春夏連続優勝を果たして鳴り物入りでプロの世界に飛び込み、いきなり新人王を獲得。入団3年目まで順調にローテーションの一角を任されていただけに、高いレベルの技術を求めがちになるのだが、それが原因で、かつてのポテンシャルが失われてしまったのであれば、一心不乱に投げさせることだけを考えればいい。私はそう見ていた。
もちろん、メジャーの投手コーチが彼にどんなアドバイスをしたのかまでは知らない。
けれども、何かとピッチングについて難しく考えがちだった藤浪に対し、「もっとシンプルに考えろ」とアドバイスを送ったって不思議な話ではない。
それに、日本ではコーチや球界のOBが言うことに耳を傾けなかった藤浪ではあったが、アメリカに来て、いよいよ通用しないことがわかれば、居場所がなくなる。「ダメだったときは、日本に戻ってきてやればいい」と考える人もいるかもしれないが、彼のプライドを考えれば、「日本に戻ること=メジャーで通用しなかった」というレッテルを貼られると思って、屈辱に感じるに違いない。
藤浪は7月にアスレチックスからボルチモア・オリオールズへと移籍した。オリオールズは優勝争いをしているチームだ。そのチームに6月から急変貌した藤浪が必要だと言われての移籍なのだから、言うなれば栄転である。
この先も好投する日もあれば、コントロールを乱して四死球を連発したり、打たれたりする日もあるだろう。けれども、藤浪がメジャーでどれだけ通用するのか、この目でしかと見届けたい。
<「阪神の過去」編に続く>