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藤井聡太は携帯を“手元に置かない”…「研究会でもまったく見ない」師匠・杉本昌隆が明かす「八冠の集中力の真髄」
text by
杉本昌隆Masataka Sugimoto
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/10/13 06:01
2020年に史上最年少でタイトル(棋聖)を獲得してから次々と他の冠も手中にしていった藤井。師匠が語る集中力の真髄とは
それは、読みを省く必要が出てくるからだと、私は考えています。持ち時間が少ない場合は、手を全部読んでいては間に合わない。ある程度のところで打ち切らなくてはならず、決断を迫られてしまう。つまり、自分が納得するまで読むことができません。
藤井はおそらく、持ち時間がないのに読み続けてしまっていたか、あるいは読みを排して決断を強行していくのが好きではなかったか、そのどちらかだった。
強くなるためには「負けを受け入れる」
昨今の若者は、2倍速で映画を観る、また結末を知ってから小説を読んだり、映画を観たりするそうです。時間短縮やある意味の合理性という点では、よい面もあるかもしれませんが、少なくとも自分の頭で想像したり、考えることが少なからずなくなってしまっているのではないでしょうか。
棋士は、それらの行いとは正反対の道を歩んでいます。
あるインタビューで藤井は、「自分が強くなるために負けが必要である場合、(目の前の勝負に勝つのと)どちらを取りますか」という質問に対して、「負けを受け入れる」と答えていました。
これは、藤井の将棋観にも通じるところですが、藤井は勝つことよりも読むことを、勝利よりも将棋の真理ともいうべきものを求めているのです。
妥協しないがゆえに時間を使いすぎていた?
棋士としては、当然最優先とすべき勝負に勝つことを優先するのではなく、強くなることを優先する、強くなるためには読むことが大事であると考え、そこは妥協しません。そのため、必然的に早指しとなってしまうタイトルを、逃していたのかもしれません。