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藤井聡太は携帯を“手元に置かない”…「研究会でもまったく見ない」師匠・杉本昌隆が明かす「八冠の集中力の真髄」
text by
杉本昌隆Masataka Sugimoto
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/10/13 06:01
2020年に史上最年少でタイトル(棋聖)を獲得してから次々と他の冠も手中にしていった藤井。師匠が語る集中力の真髄とは
藤井王位の第64期王位戦7番勝負第一局が終わったばかりの打ち上げの席での出来事でした。私は藤井にその一日前に行われたある将棋を見せました。弟子の今井絢が西山朋佳女流三冠と指して、善戦しながら惜しくも負けてしまった対局です。
すると、ある局面で藤井が、実戦では現れなかった変化で「ここでこう指すとどうなるのかな」と考え始めました。
すごく好きだからこそ、すぐに集中モードに
打ち上げの席で、完全なオフの状態です。彼はお酒を飲んでいませんでしたが、そのようなリラックスした場でも将棋のことを考えたいと思う人です。
そこで面倒くさがらずに考えられる人は、強い。藤井は自身の王位戦が終わり、心身ともに疲れているはずなのに、食事をしながら、集中モードに入る。
オフの場でもすぐに集中モードに入れる人は、棋士の中でもかなり少ない。まずは仕事ということを差し置いても、それがすごく好きな人ではないとできないし、何より面倒くさいなどと少しも思わないのでしょう。
弱点だった「早指し」
めきめきと実力をつけ、今や棋界のトップランナーとなった藤井ですが、逆にいえば、今までは明確な弱点も存在していました。
それが早指しです。本人も早指しが苦手な傾向は自覚していたようです。とくに、時間の短いNHK杯では成績を残せていませんでした。
NHK杯の持ち時間は各十分で、それを使い切ると一分単位で合計10回の考慮時間、その後は一手30秒以内に指さなければなりません。極端に持ち時間の少ないルールとなっています。今でこそNHK杯(2022年度第72回)優勝を果たした藤井ですが、過去の戦績を見てみますと、第71回までの通算成績は、本戦トーナメントで4勝5敗と負け越しています。
早指しが苦手だった理由
藤井はなぜ、早指しを苦手としていたのでしょうか。