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「藤井聡太の殺気が漂っていた」豊島将之に6連敗…”人生最大の逆転負け”の夜、藤井が新幹線ホームで師匠・杉本昌隆に聞いたこと
posted2023/10/13 06:02
text by
杉本昌隆Masataka Sugimoto
photograph by
Takuya Sugiyama
10月11日の王座戦第4局を勝利し、将棋界の8大タイトル全てを手に入れ、「八冠王」となった藤井聡太。師匠・杉本昌隆が「快進撃の契機」と考えている一局がある。師匠が明かす「人生最大の逆転負け」の一局を著書『藤井聡太は、こう考える』(PHP研究所)より抜粋して紹介する。(全3回の3回目/#2、#3からの続き)
あんなに運がない棋士も珍しい
ほとんど偶然の要素がないと思われている将棋にも、運というものがあります。例えば、先後を決める振り駒は完全に偶然的なものです。また、プロ制度の中で、昇級、降級枠の増減なども運といえるでしょう。
それでいえば、藤井はあまり運がよくない棋士です。あんなに運がない棋士も珍しいと思うほどです。
まず一つ、将棋は先手番が有利とされます。藤井もとくに先手番において圧倒的な勝率を誇りますが、振り駒に運がなく、過去においては、後手番を引きやすかった(2018年度:先手番12局、後手番30局)。また、13歳2カ月で奨励会三段に昇段した藤井ですが、昇段タイミングが悪く、三段リーグ戦への参加には半年も待たされることになりました。結果的には一期で三段リーグを抜け、史上最年少でのプロ入りを果たしていますが、この不運がなければ、最年少記録は14歳でなく、半年早い13歳だったかもしれません。
頓死のような形で「最年少挑戦」が絶望的に
記録上の不運でいえば、他にも第69期大阪王将杯王将戦の挑戦者決定リーグ最終局で、頓死のような形で負けてしまい、最年少挑戦記録が絶望的になったことがあります。
さらに、第77期順位戦C級1組で9勝1敗の成績を残しながらも、順位が下位だったため頭ハネで、昇級を逃したこともあります。
そんな運のなさを数え上げればきりがありません。
運頼みのテクニックに頼らない
以前から私は、藤井は運を必要としないタイプだと考えていますが、そもそも、藤井は運頼みをしていません。