甲子園の風BACK NUMBER
甲子園出場時に寄付金「1億4000万円」の野球熱…「離島の希望」隠岐高が部員ゼロから“奇跡の復活”を果たすまで「部活がなくなって気づいた」
text by
樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph byYuki Kashimoto
posted2023/05/06 11:03
20年前に甲子園出場を果たした隠岐高校OBの岩水潤さん・藤野真一郎さん、安部大地部長、OB岩水潤さん、渡部謙監督、OB平田稔さん
「共通して言えるのは、2人とも覚悟が凄いということ。危機感や、使命感を持って動いている人の熱量はハンパないなと思いました。でも全国には自分みたいにどうしたらいいか苦しんでいる指導者がたくさんいると思うんです」。帰島後は学んだことを文書化し、A4サイズ1枚の計画案を作成した。その文書をOB会、後援会の会長に見てもらい、明確なビジョンを伝えた。
部員ゼロで気づいた「犠牲合戦の現状」
「とにかく、まずは部員集め」。それまでのチーム運営の優先順位がひっくり返り、勝った、負けたで悩んでいた前任校時代の自分が、なつかしく思えた。たくさんの本も読み、今まで気づかなかったことが次々と頭に浮かんできた。その中の一つが、監督のメンタルヘルスについての考えだ。
「土日に予定がない生活って、自分が野球を始めて以来、初めてなんですよ。公務員って本来はこういう生活なんだなって思いましたね。選手、指導者のときは『休みが欲しいな』と思っていましたが、何もないと、やることがない。家族と過ごす時間が増えて、娘からは『お父さん、今日も(家に)いるの?』って言われたりもしています(笑)。でもこういう時間も、人間は必要なんだなと思いました。
監督っていろいろ全部を背負わないといけないので、ツライんですよ。昔の監督は家族を犠牲にして自分を犠牲にして、って『犠牲合戦』みたいなやり方が主流だったと思うんです。でも、それじゃこれからの指導者は続いていかない。シーズンオフは土日のどちらかを休みにするとか、有給休暇のような制度を作るとか、新しいやり方があるんじゃないかと」
学校によって考えは違うが、強豪私学の監督ならとても口にできないアイディアだろう。しかし、監督がいなくても自走できるような運営システムがあれば、監督一人が背負い込まず、心も健康でいられるはず。
渡部の言葉は、理想論と言われるかもしれないが、これは野球部の活動が「なくなって」初めて気づいた発見だった。野球界で理解してもらうには時間がかかるかもしれない。だが思う。「監督の心がリフレッシュされていれば、問題視されている体罰もなくなるはずなんです」。
部員ゼロで気づいた「兼部の必要性」
気づきは他にもある。再建のピースに「他競技との兼部」も考えた。実は一昨年の秋、部員が8人しかおらず単独チームを諦めていたとき、バレー部から3人の助っ人がやってきた。一人は初心者だったが、身体能力の高さでめきめきと上達し、公式戦で強豪校の大社になんと2安打。8回まで3-6の善戦をやってのけたという(最終結果は3-8)。このとき「部活専科型を見直す時期に来ているのではないか?」という考えが浮かんだのだ。