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「ミルコをKOし、ヒョードルをぶん投げた男」ケビン・ランデルマンを覚えているか? “伝説のバックドロップ”を撮ったカメラマンの追憶
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![長尾迪](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/8/1/-/img_81f7dc07f2eca17fd25985d38aa43b67379625.jpg)
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2023/04/22 17:00
![「ミルコをKOし、ヒョードルをぶん投げた男」ケビン・ランデルマンを覚えているか? “伝説のバックドロップ”を撮ったカメラマンの追憶<Number Web> photograph by Susumu Nagao](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/2/c/700/img_2c6c16a48fd9f8c2351af2f93d1e8ea1454682.jpg)
自慢の怪力でエメリヤーエンコ・ヒョードルを担ぎ上げるケビン・ランデルマン。多くのファンに愛された好漢は、2016年に44歳の若さでこの世を去った
1ラウンド開始から100秒ほどが過ぎたときだった。ランデルマンの強烈な左フックが、ミルコの顎を打ち抜く。ダウンしたミルコにグラウンドからパンチを連打し、最後はハンマーのようなパウンドを振り下ろした。完全に意識を飛ばされ、微動だにしないミルコ。衝撃度ではPRIDE史上最大といっても過言ではない、まさに世紀のアップセットだった。
そして試合後のランデルマンのマイクアピールもまた、史上最高といっていいほどに秀逸だった。
「この試合に臨む前、俺が怖がっていたと思うだろう? もちろん怖かったよ。俺だってみんなと同じ1人の人間だから。だけど、YOU! YOU! YOU! お前らのために俺は闘ってるんだよ! お前らのためなら地獄を見てもいい。その地獄を潜り抜けて天国を見ると決めたんだ。また、お前らのために俺は闘うよ。愛してるぜ、また会おう。アリガトウ」
ヒョードル戦前のジャンプはいつも以上に高かった
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熱すぎるメッセージでファンの心をわしづかみにしたランデルマンの2回戦の相手は、“人類最強の男”と呼ばれた全盛期のエメリヤーエンコ・ヒョードルだった。ヒョードルは1回戦でランデルマンの師匠コールマンを一蹴している。“師匠の敵討ち”というテーマがあるとはいえ、このマッチメイクには実力差があると誰もが感じていた。しかしその一方で、ミルコ戦のようなビッグサプライズが起こりうるのでは、という期待感も微かにあった。
2004年6月20日、さいたまスーパーアリーナ。この日は梅雨独特のどんよりとした曇り空で、30度を超す蒸し暑さだった。ランデルマンはメインイベントに登場した。試合前のジャンプがいつもよりも高かったのは、気合が入っていたからなのか、それとも単に私がそう感じただけなのか。今となっては知る由もない。ただ、リング上のランデルマンを見て、何かが起きそうな予感がしたことだけは覚えている。とはいえ、ヒョードルが敗れることはないだろうが……。