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武尊の“1試合1億円”契約はなぜ実現した? ABEMA格闘プロデューサーが明かす“破格契約の真意”とネット配信の未来「1億円は武尊選手への誓い」
posted2023/04/19 11:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
“1億円ファイター”のインパクトは大きい。復帰が決まった格闘家・武尊である。
昨年6月、東京ドームを満員にした『THE MATCH』で那須川天心と対戦し、判定負けを喫した武尊。その直後、ケガによる休養を発表した。またパニック障害とうつ病で通院していたことも明かしている。
それから9カ月。3月29日の会見で復帰戦が発表された。K-1との契約を終えた武尊の次の舞台はフランス。6月24日にパリで開催される大会に出場し、ベイリー・サグデンと対戦。試合はISKA世界王座決定戦となる(K-1ルール・61kg級)。
武尊にとって初の海外遠征となる復帰戦から、その立ち位置も変わる。単なる“フリー”ではない。会見で試合とともにアナウンスされたのは、今後インターネット放送局ABEMAと「専属PPVファイター」として契約するということ。
武尊の試合はABEMAのPPV(試合、大会ごとの課金コンテンツ)として配信され、ファイトマネーとは別にPPVのギャランティーが支払われるという。武尊がK-1との契約を終え、フリーエージェントになり、今後のキャリアを考える中でABEMAからのオファーがあったというこの契約は、最低保証額が1億円。あくまで“最低”額であり、PPVの売上げに応じた報奨金も発生する。
「1試合1億円」契約は破格中の破格
1試合最低1億。日本人ファイターとしては破格中の破格だ。「素直に嬉しいと思うと同時に、ビックリしました」と会見での武尊。『THE MATCH2022』はフジテレビでの中継が決まっていたものの中止に。だが結果として、ABEMAのPPVが券売数50万件以上という大成功を収めた。
武尊も『THE MATCH2022』でPPVの可能性を感じるようになったそうだ。老若男女、誰もが見やすい地上波中継の消滅に落胆と憤りを感じていたが、ネットPPVは世界配信。海外にアピールしやすいと。そして世界というスケールでの人気が、選手の待遇にも関係してくる。
「海外のようにアスリートがもっと評価されて、対価を得る世界になっていくのかなと。(今回の契約は)いま頑張っている選手、これからプロを目指す選手にとって未来につながる契約になると思います。モデル(ケース)としてもっと活躍して、いい結果を残していきたい。ありがたい契約です」
ABEMAプロデューサーが語る“1億円”の狙い
格闘技が今、ネット配信の時代を迎えていることは間違いない。ABEMAでは昨年9月のフロイド・メイウェザーJr.と朝倉未来の対戦(エキシビション)も大反響を呼んだ。またゲンナジー・ゴロフキンvs.村田諒太、井上尚弥の4団体統一戦、那須川天心のボクシングデビュー戦など、ボクシングのビッグマッチがインターネットのプラットフォームで中継されることが目立つようにもなっている。
「ただ、これはよく言われる“ネットかテレビか”ということではないと考えています」
そう語るのは、武尊の会見に同席した北野雄司氏。ABEMA格闘チャンネルのエグゼクティブ・プロデューサーである。“1億円ファイター”誕生の仕掛人と言ってもいいだろう。