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プロ野球PRESSBACK NUMBER
投壊、96敗、バッシング…「あの経験があったから」ヤクルト・中村悠平の闘争心の源 古田敦也&嶋基宏と取り組む最強の「フレーミング術」も明かした
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2023/02/15 11:02
「野村ID」の系譜を受け継ぎ、さらに進化を目指すヤクルト・中村悠平
2021年にヤクルトを日本一に導き、翌年はセ・リーグ連覇を達成。強力打線を擁しながら、投手力に難ありと言われ続けてきたチームが頂点へと駆け上がったのは、司令塔・中村の充実あればこそだった。とはいえ、その成長の陰には、人知れぬ苦しみがあったという。
「ここ数年は良い結果が出て色々な方に評価していただいたりもしますが、信頼を得るということは徐々にしか積み重ねられないのに対して、信頼を失うのは一瞬なんですよね。2015年の前後で、僕は本当に苦しい思いをしてきました。全く勝てない時期もあり、15年に優勝した後の16年は5位、最下位に沈んだ17年は96敗しました。個人的に全然打てなくなってレギュラーも外された。そういった苦い経験をしているからこそ、逆に今が良くてもまたすぐに、そういう時期が来るよ、ということも自分の中で想定しておかなければいけないと思っているんです」
「打たれて負けるのは、バッテリーの責任」
野村克也氏の影響力もあり、日本野球においてキャッチャーのリードは注目度が高い反面、失点が多くチームが勝てない時期には、捕手が批判の的になることも多い。まさに“打高投低”で黒星を重ねていた当時のヤクルトで、中村にもさまざまな声が聞こえていたという。
「打たれて負けるのはピッチャーだけのせいじゃないし、バッテリーの責任になるのは当然。苦しかったですけど、自分で乗り越えるしかない。諦めるという気持ちは全くなかったです。基本的にはやっぱり、自分が小さい頃から大好きな世界にいるんだ、ということが一番。好きで飛び込んでいるのだから、野球をやっている自分が一番いいんだ、という思いを根底に持ち続けていました」
怪我が相次いだ2020年は出場29試合。一度はレギュラーを奪われかけた苦い経験は、今も中村の闘志に火を注ぎ続けている。
「キャッチャーは一人しか出られないポジション。そこを毎年、毎年、勝ち抜いていかないといけない。そこの面で競争心は常に持っています。若い頃は先輩のキャッチャーを追い抜くためにどうしたら良いのか、今では若い選手に負けないために。個人的に感じていることは、野球選手である以上は1日たりとも気が抜けないということ。苦い経験を忘れないように糧として、野球をやっている時には常に、どうやったら上手くなるのか、どうやったらチームが勝てるのかな、と真剣に考えていきたいと思っています」
昨秋日本シリーズを戦ったヤクルトの選手たちの中でも、中村らWBC組は今シーズン誰よりも早く始動して3月上旬から世界最高峰の戦いへとギアを上げる。連覇から、世界一、そして再びの日本一へと挑む「一番長い1年」へーー。
「世界一になって、日本一になったら……素晴らしいシーズンですよね。孫にまで話せるかな。おじいちゃんはね、って(笑)」