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高校サッカーや三笘薫ら輩出の大学、Jユースからどう超一流を生むか…育成経験指導者や三都主アレサンドロも感じる“長所と短所”
posted2023/01/14 11:03
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph by
Kiichi Matsumoto
日本の選手育成を担うのは、主として中学、高校の部活動、Jリーグのアカデミー、大学体育会の三者だ。それぞれの長所と短所を検証した。
まずは中高の部活動から。カタールW杯日本代表で高卒Jリーガーだった選手は柴崎岳、鎌田大地、浅野拓磨、川島永嗣、前田大然、町野修斗がいる。
<中学、高校の部活動>
【長所】
1)指導者の多くが教育者であり、学校のチームとして練習し、公式戦に出場することから、選手への教育的な効果を期待できる。
2)顕著な能力を発揮した選手は上の教育機関(中学なら高校、高校なら大学)へスポーツ推薦をしてもらったり、スポーツ特待生として進学できる可能性がある。
3)部活動を通じてチームメイトと深い友情を育むことが期待できる。
4)強豪校では100人を超えるような大人数の部員を抱えることがあり、激しい競争に打ち勝つ過程で強いメンタルを育むことが可能。
5)月謝が無料か少額であることが多く、親の経済的な負担が比較的少ない。
【短所】
1)強豪校では、指導者と部員に地域の大会や全国大会で好成績をあげて校名を広めることを期待されることが多い。それゆえ勝利至上主義に陥りやすく、体罰、パワハラ、暴言の温床となりかねない。
2013年に『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』でこの問題に警鐘を鳴らしたスポーツライターの加部究氏は、「その後、親の意識が変化してきて、子供への体罰やパワハラを許さない傾向が高まった」としながらも、「勝利至上主義の悪弊はなかなかなくならない」と手厳しく論じている。
2)かつては、指導者や上級生からの理不尽な指導や対応のため、やる気をなくして成長を阻害されたり、燃え尽きて卒業と同時にキャリアに終止符を打った生徒が少なくなかった。
元日本代表FWの大久保嘉人(国見高出身)は、「昔は、『つらさに耐えてこそ人は成長する』という考えが強かった。でも、ただつらいだけの理不尽な指導は才能をつぶすと思う。理不尽なことを強いられ、サッカーが嫌いになって部活を辞める子がたくさんいたのではないか。すごくもったいない」と語っている。
その一方で、強豪高での理不尽な練習や過酷な下宿生活などを「もう二度とやりたくない」としながらも、「今の自分があるのはあの頃、歯を食いしばって耐えたから」と振り返る元Jリーガーもいる。
育成年代を経験した指導者が話していた課題
3)試合に勝つため一部の選手しか出場させないことが多く、遅咲きの選手を切り捨てることが少なくない。
これについても、大久保は「まだ成長過程なのだから、できるだけ多くの選手に出場機会を与えるべきではないか」と語っている。
4)すでにプロとしてプレーできるレベルの選手であっても、高校卒業まではプロチームではプレーできないことが多い(高校、大学の優秀な選手が卒業前にJリーグのクラブなどでプレーする道を開く「特別指定選手」の制度があるが、すべての有望選手が活用できているわけではない)。
幼稚園児に小中学生、高校の部活動、大学の体育会、プロクラブのアカデミーとあらゆる育成年代の指導経験を持ち、現在はアルビレックス新潟シンガポールの監督を務める吉永一明監督(山梨学院高校時代には前田大然を指導したこともある)はこのように指摘する。