熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
高校サッカーや三笘薫ら輩出の大学、Jユースからどう超一流を生むか…育成経験指導者や三都主アレサンドロも感じる“長所と短所”
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/01/14 11:03
毎年恒例の全国高校サッカー選手権。育成年代について考えていくことも、日本サッカー強化への指針となる
JクラブがU-20のチームを持たない理由の1つは「維持費がかかり、それを回収するのが困難だから」ことだろう。手間暇かけてアカデミーで選手を育てても、欧州などのクラブから声がかかると、格安の移籍金で譲渡してしまうケースが多い。
元日本代表左サイドバックの三都主アレサンドロ(明徳義塾高出身。プロでは清水エスパルス、浦和レッズなど)は現在、ブラジルで選手育成専門のクラブを運営し、プロクラブのCEOも務めている。
「日本ではチームの主力選手が法外に安い移籍金で欧州クラブへ移籍することがあり、クラブもサポーターもそれを容認していたりする。本当にお人良し。南米、欧州ではありえない」
このように憤慨していた。彼が運営する選手育成クラブでは、「国内のクラブから若手選手に声がかかると、選手の保有権の一部を保持しておいて、将来、別のクラブへ移籍した際に移籍金の一部を受け取れるようにしている」そうだ。アカデミーで育てた選手を他クラブへ売って移籍金を受け取ることができれば、クラブの財政に大きく貢献するし、その一部を選手育成に再投資できる。
久保建英とビニシウスらの「レアル加入時」に起きたこと
「移籍金をできるだけ安く設定できれば、欧州のクラブへ移籍することが容易となる」と考える選手と代理人が多いようだ。しかし、その場合「新たな所属先のクラブは、選手を獲得するのに要した移籍金に見合った扱いを受けることが多い」という現実から目を背けているのではないか。
たとえば、日本代表FW久保建英(現レアル・ソシエダ)は18歳になったばかりの2019年6月、移籍金なしで当時所属していたFC東京からレアル・マドリーへ移った。
これに対し、リオの名門フラメンゴのアカデミーで育ったFWビニシウス(現ブラジル代表)は移籍金4000万ユーロ(約56億円)で、サントスのアカデミーで育ったFWロドリゴ(現ブラジル代表)も移籍金4000万ユーロでレアル・マドリーへ迎え入れられた。
久保がレアル・マドリー入りした当時、スペインのスポーツ紙「マルカ」の記者は、「巨額の移籍金を払って獲得したビニシウス、ロドリゴと移籍金なしで獲得した久保とでは、クラブ側の期待度や扱いは当然、違ってくる」と語っていた。
Jリーグのクラブは、選手はクラブにとって貴重な商品であり、他クラブへ譲り渡す場合はしかるべき金額の移籍金を受け取る権利がある。そのことがクラブの財政を助け、アカデミーへの再投資、選手補強などの利益をもたらすし、また移籍金を払わせて入団することが選手のステータスを高める。それを選手と代理人に理解させる必要があるだろう。
3)部活動出身者と比べて逞しさが足りない選手がいる。
これは、上記「<中学、高校の部活動>の短所1)」の裏返しだ。
4)月謝を徴収するクラブがあり、部活動よりも親の経済的負担が大きいことがある。
ちなみに、南米のプロクラブはアカデミーでの選手育成を投資とみなしており、月謝を徴収しない。そればかりか、用具を無償で提供し、遠征費などの全経費をクラブが負担するのが通例となっている。
【提言】
欧州、南米のように、プロクラブのアカデミーがプロ選手の大半を育成するのが理想だろう。しかし現状ではいくつかの問題があり、それを早急に解決すべきではないか。