熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
高校サッカーや三笘薫ら輩出の大学、Jユースからどう超一流を生むか…育成経験指導者や三都主アレサンドロも感じる“長所と短所”
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/01/14 11:03
毎年恒例の全国高校サッカー選手権。育成年代について考えていくことも、日本サッカー強化への指針となる
「今年、高卒1年目でレギュラーとして活躍しているFC東京のMF松木玖生などは、以前からプロでプレーできる力があったと思う。でも、高校のチームでプレーしていたからそれは難しかった。選手としての成長を最優先するなら、もったいなかった」
欧州や南米では16歳、17歳でもプロリーグでプレーする選手がいる。それは、学校のチームではなくプロクラブのアカデミーで育っており、トップチームでデビューするのに卒業を待つ必要がないからだ。
5)一部の高校では充実した練習設備があり、優秀な指導者がいるが、すべての高校がそうとは限らない。
【提言】
世界のトップ選手を育てることが不可能とは言い切れないが、そのために理想的な環境を提供できる学校は多くないだろう。トップを目指す選手には、特別な自覚と努力が求められる。
これまで、日本のフットボールは選手育成の極めて大きな部分を高校と大学の部活動に依存してきた。
長期間、日本中の膨大な数の指導者が困難を乗り越えてチームを強化し、その過程で選手を育成してきた。そのお陰で、日本のフットボールは欧州中堅国と肩を並べるまでになった。しかしながらブラジルなどの育成を目の当たりにすると――プロクラブや日本代表が「チームの勝利を最大の目的」とするアマチュア組織にプロ選手、それも世界のトップ選手の育成を期待するのはそもそも無理があるのでは、とも感じる。
Jのアカデミーの長所と短所を挙げてみると
次にJリーグのアカデミーを見てみよう。高卒時点または高校時代にユースからトップチームに昇格したのは権田修一、吉田麻也、板倉滉、冨安健洋、伊藤洋輝、酒井宏樹、遠藤航、堂安律、南野拓実、田中碧、久保建英(※バルサ下部組織からFC東京下部組織へ)となる。
<Jリーグのアカデミー>
【長所】
1)厳しい選抜を経て入団した少数の選手が、プロクラブの施設を使い、プロの指導者とスタッフから英才教育を受けることが可能。
2)U-18を終えたら、トップチームとプロ契約を結べる可能性がある。
3)U-18を終えてプロ契約に至らない場合でも、大学へスポーツ推薦もしくはスポーツ特待生として入学できる可能性がある。
4)U-15、U-18に入団したら通常、年齢制限までは在籍できる。
【短所】
1)選手の流動性が少なく、競争原理が十分に働かない恐れがある。
欧州・南米のクラブのアカデミーでは常時、選手の入れ替えがある。一度アカデミーに入っても、いつ別の選手が入ってきて退団を余儀なくされるかわからない。競争が非常に激しく、選手たちは常に懸命に練習に励んで成長を目指す。
その反面、プロ契約を結んでいなければクラブに拘束されない。格上のクラブから誘いを受けて移籍することもできるし、もし退団を余儀なくされたら別のクラブへ移って新たなチャンスを模索することも可能だ。しかし、Jクラブのアカデミーでは選手の流動性が少なく、また身分が保障されていることが“ぬるま湯”的な状況を招きかねない。
前述の吉永監督は「高校の部活動出身とJクラブのアカデミー出身とでは、部活動出身の方が精神的に逞しい者が多い。高校の強豪校なら大勢の部員がいて、一軍でプレーするには激しい競争を勝ち抜かなければならない。しかし、Jクラブのアカデミーは人数が少なく、競争原理があまり働いていないことがある」と指摘する。
三都主が「南米、欧州ではありえない」と憤慨したこと
2)U-20のカテゴリーが存在しない。
JリーグのクラブにはU-20がなく、U-18を終えてすぐにクラブとプロ契約を締結できる選手はごく一握り。それ以外の選手で高校卒業後もプレーを続けたければ、大学に進学して体育会に入るか海外のクラブを探すくらいしか選択肢がない。U-20のクラブがないことを、大学の体育会が補っている部分もあるようだ。
ブラジルで最も選手育成がうまいという定評があるサントスのアカデミー関係者は、「選手育成ではすべてのカテゴリーが重要だが、大半の選手にとってプロになる直前の段階であるU-20は絶対に欠かせない」と語り、日本の現状を伝えると「理解できない」と頭を振った。