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医師に本気で怒られた「何してるんだ!」「アスリート復帰は無理」“心肺停止で死にかけた”世界的クライマーはなぜそれでも山へ戻るのか?
text by
寺倉力Chikara Terakura
photograph byMiki Fukano
posted2022/12/31 17:12
プロクライマー倉上慶大。国内の最難ルートを次々に完登するなど、世界のクライミングメディアから注目される。2021年10月に心肺停止を経験、そこから復帰した
倉上 退院後、かなり回復したという実感があり、運動中の心拍や血圧の変化を確認したかったので、4月下旬に運動負荷心電図検査ができる病院に行ったのです。まだ心拍は150までしか上げられないころでしたが、心電図を測りながらエアロバイクを漕いで検査します。ところが、そこでも症状は出てしまいました。
倒れる前にも病院を受診しているので、入院した病院がセカンドオピニオン、サードオピニオンまで受診しましたが、やはり言われたことは同じで「アスリート復帰は困難」「除細動器を入れるべき」ということでした。
――その時点から現在のバリバリ動けている状態までどう回復していったのですか。
倉上 あるとき、クライミング時と歩行時とを較べて、クライミング中のほうが症状が軽度なことに気がついたのです。それこそ五段のようなハードなボルダリングでも、時間のかかるマルチピッチクライミングでも、一切症状がでない。心拍が170近くまで上がっても、です。
これは心拍ではなく、使う筋肉が影響しているのではないかと考えたのです。なぜなら、僕が倒れたのはマウンテンバイクでしたし、ジムではトレッドミル、検査のときはエアロバイク。すべて下半身の運動です。
逆にクライミングでは、上半身を酷使しても症状は軽度。懸垂くらいならぜんぜん大丈夫でした。これはボルダリングやスポートルートなら大丈夫だなという判断になりました。ただし、今後はビッグウォールクライミングや、より僻地でのアルパインクライミングもやりたいから、やはり、歩けるようにならなくちゃいけない。そう思って、心拍数のこととあわせてトレイルランニングの選手から学ばせてもらうようになったのです。
――いつも感じるのですが、倉上さんはあり余るモチベーションで情熱的に行動していますが、同時にロジカルな思考に長けていて、言語化能力も高い。
倉上 それはおそらく、大学で物理学を学んでいたことが大きいと思います。大学院では物性物理学という量子力学のような分野の研究をしていました。物理実験でのプロセスや、因数分解といったようなロジックが染みついているのかもしれません。なぜ、この壁を登れないのかというときに、一つひとつの要素に分解して、それを組み立て直しながら考える。クライミングもそうやって上達してきました。
死を目前にしたとき、どんな選択をするか?
――心臓病から回復したことで、なにかが変わりましたか。