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医師に本気で怒られた「何してるんだ!」「アスリート復帰は無理」“心肺停止で死にかけた”世界的クライマーはなぜそれでも山へ戻るのか?
text by
寺倉力Chikara Terakura
photograph byMiki Fukano
posted2022/12/31 17:12
プロクライマー倉上慶大。国内の最難ルートを次々に完登するなど、世界のクライミングメディアから注目される。2021年10月に心肺停止を経験、そこから復帰した
倉上 メンタルと、クライミングとの向き合い方は大きく変化したと思います。今まではどちらかといえば、「こうせねばならない」といった頑ななクライミングスタイルにこだわってきました。昔のクライマーには多かったと思いますが、僕も思考がそっち寄りでした。でも、今はそこから解放された。そういうものをどんどん省いて、自分のときめいていることを選択する。そうしたマインドチェンジですね。
自分が心臓病になって実感したんですが、もし死を目前としたときに、どんな選択をするか。それはクライマーだけじゃなく、人間なら誰もが降りかかってくる問題です。そのときに、自分なりに納得のいく準備ができることが大事で、僕はクライミングから多くを学んできました。クライミングは人生を豊かにするというのは、そうした意味合いもあると思っています。
――クライミングから学んだ考察力、判断力、行動力は、家庭生活にも生かされていますか。
倉上 いや、あまり生かされていません。家庭生活では判断ミスばかり。たぶん、パートナーに頼り切っているのでしょうね。そこも完璧にできればいいけど、まあ、できないのもいいかな(笑)。
今回の心臓病も、リスクあるクライミングも、自分自身は自分の状態をコントロールできているからいいのですが、精神的なタフさが一番求められるのは、実は近くにいる妻なのではと思います。退院の時に私の選択を受け入れる時もそうですし、退院後のリハビリでも、自宅裏山の坂道を苦しそうに歩く自分の姿を目の当たりにしています。
そんななか、いつもAEDを背負って一緒に歩いてくれたり、今また、クライミングに向かう自分を送り出してくれるのだから、本当にもっと感謝しないといけませんよね。今回は、自分の命のリスクよりもクライミングのある人生を選択しましたが、もしも、クライミングと妻や家族を天秤に掛けるようなときが訪れたら、躊躇なくクライミングを手放すと思っています。
<#1、#2から続く>