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医師に本気で怒られた「何してるんだ!」「アスリート復帰は無理」“心肺停止で死にかけた”世界的クライマーはなぜそれでも山へ戻るのか? 

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寺倉力

寺倉力Chikara Terakura

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photograph byMiki Fukano

posted2022/12/31 17:12

医師に本気で怒られた「何してるんだ!」「アスリート復帰は無理」“心肺停止で死にかけた”世界的クライマーはなぜそれでも山へ戻るのか?<Number Web> photograph by Miki Fukano

プロクライマー倉上慶大。国内の最難ルートを次々に完登するなど、世界のクライミングメディアから注目される。2021年10月に心肺停止を経験、そこから復帰した

倉上 福岡伸一さんの『動的平衡』という本をご存じですか。僕はあの本の、細胞は1年半ですべて入れ替わるという考え方にかなり影響を受けています。そのなかで、自分が食べたものはエネルギーとして変換されるだけでなく、体の細胞の一部になるというルドルフ・シェーンハイマーさんの説が紹介されています。ならば、食べ物によって細胞が生まれ変わる方向性を自分で作り出せたら、この病気だって治らない保証はないと考えたんです。実際、入院中はやたらと野菜が食べたくなった。それが自然の流れなんだろうと思い、退院後はビーガンに徹しました。

 アメリカの心臓病の権威の先生が書いた『血管をよみがえらせる食事』(コールドウェル・B・エセルスティン著)という本があります。それによると、ビーガンかつオイルフリーを徹底的にやることが大事と書いてあった。そこで3カ月間徹底的にやったら、すごく体調も良くなった。

――今でもそれを継続していますか。

倉上 今は6割程度です。リカバリーのときは、そうした野菜中心オイルフリーの食事がいいとわかったのですが、今度、攻めの姿勢に入るときは、ある程度、動物性が必要なのかも、と。動き続けるためのエネルギー(ATP)を効率よく生成するのは脂肪からなのですが、それを野菜だけで補うのは厳しいんですよね。なので、たとえば山から帰ってきた日はビーガンとオイルフリーでリカバリーして、ハードな山行の前日は動物性脂肪を摂るといったように、行動によってフレキシブルに分けています。

医師に怒られた「何をやってるんだ」

――退院後、最初にクライミングしたのはいつ頃ですか?

倉上 2月下旬くらいですね。そのときは食事とトレーニングを変えて2カ月ほど経っていた頃で、かなり良くなっているのを実感していて、ボルダーで五段(※)の課題が登れました。倒れる前はムーブすら起きない課題だったので、おお、よくなってるなって。

(※現在の日本のボルダーグレードでは、「五段」の上は「五段+」か、最上位の「六段」しかない。心肺停止でICUに入っていた人が、退院後わずか2、3カ月でトライする課題ではない)

――ちなみに、12月頭に退院してから年内は登りに行っていませんよね?

倉上 倒れた直後にAEDを個人で購入してバックアップ体制は整っていたのですが、なにより不安だったので岩場は行っていません。妻にも止められていました。

――でしょうね。それは賢明です。

倉上 ただ、倒れてから2週間後にジムに行って、トレッドミルで走ってみました。でも、目まいがひどくて、あ、これはホントに体が悪かったんだなと。12月27日のメモに書いています。「日常生活で胸痛は出ないけど、トレッドミルで20分、脈拍140で胸が痛くなった」と。診察でそう報告をしたら、先生から怒られましたけどね。「何をやってるんだ」って。では何もするなってことですかと言ったら、「そういうことだよ」と。

サードオピニオンでも「アスリート復帰は困難」

――その後、サードオピニオンまで受けたと聞いています。

【次ページ】 「アスリート復帰は困難」

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