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医師に本気で怒られた「何してるんだ!」「アスリート復帰は無理」“心肺停止で死にかけた”世界的クライマーはなぜそれでも山へ戻るのか?
posted2022/12/31 17:12
text by
寺倉力Chikara Terakura
photograph by
Miki Fukano
だが、倉上は昨年、文字通りに生死の淵を彷徨っていた。日本屈指のクライマーに何が起き、そこからいかに奇跡の復活を果たしたのか。【全3回の3回目/#1、#2へ】
「トレーニングは自分を弱くする」
心肺停止から1年が経ち、「アスリートとしての復帰は困難」とまで言われた倉上は、現在90%程度まで回復し、高難度のボルダリングや、18時間に及ぶ継続的なクライミングも行ってきた 。取材の前日も、コースタイムで往復9時間という登山道を、トレーニングがてら半日で駆け抜けてきたという。90%ではなく、120%の間違いではないかと思える回復ぶりだ。
――退院してからの経過はどうだったんですか。
倉上 退院直後はゆるやかな坂道すら登れませんでした。心拍数は110から120なのに、目まいがして、胸が激しく痛くなる。まあ、しばらく心臓が止まったままだったので当然ですね。トータルで20分ほど、僕の心臓は止まったままだったそうです。
――現在の心拍はどの程度まで戻っていますか。
倉上 今は安静時で60前後。僕は今、36歳だから(※)、最大心拍数を出す計算式(220−年齢)だと184ですよね。それで174まで上げても、胸の痛みは一切ありません。(※取材時)
――そこまで回復できたのはなぜです?
倉上 今までは無酸素系ばかりで、有酸素系トレーニングはあまりやってこなかったんです。しかも、ボルダリングやボールドなフリークライミングって、過緊張な状態での無酸素運動じゃないですか。そのバランスが悪かったことが、オーバートレーニングの原因だろうと考えました。そこで、有酸素系トレーニングのボリュームを増やしたら、すごく上向きになったんです。あとは食事です。もうこれは完全に良くなるなと、今は確信しています。
――有酸素系トレーニングの必要性とは?