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医師に本気で怒られた「何してるんだ!」「アスリート復帰は無理」“心肺停止で死にかけた”世界的クライマーはなぜそれでも山へ戻るのか?
text by
寺倉力Chikara Terakura
photograph byMiki Fukano
posted2022/12/31 17:12
プロクライマー倉上慶大。国内の最難ルートを次々に完登するなど、世界のクライミングメディアから注目される。2021年10月に心肺停止を経験、そこから復帰した
倉上 アメリカのクライマー、スティーブ・ハウスが『Training for the NEW ALPINISM』という本のなかでこう書いているんです。「トレーニングは自分を弱くする。強くするのはリカバリーだ」と。ああ、その通りだなと思って。自分はトレーニングすることに対して、かなり研究して取り組んでいたほうだと思っていましたが、リカバリーに対してはすごく無頓着だった。それを逆にしてみたら、病気もよくなってきたんです。
僕の心臓病の原因は、血管の過度な収縮なのですが、それって自律神経の話なんですよね。交感神経が優位になるとぎゅっと収縮し、副交感神経優位になるとリラックスして弛緩する。ここからは自分の推論でしかないのですが、難しいことや厳しいことを求めてクライミングをしてきた結果として、僕の血管は収縮する方に向かったのではないかと。もちろん、これについて医学的なエビデンスがあるわけでもなく、あくまで、自分の直感としての話です。
「心臓も酷使すると壊れる」
――今の回復状態をみれば、あながち的外れでもないように思えます。
倉上 トレーニングに関しては世界一のトレイルランナーであるキリアン・ジョルネのやり方を取り入れたり、トレイルランナーの宮﨑喜美乃さんの講演を聞きにいったりしました。どういうトレーニングをしているんですかって聞いてみたら、「最大心拍数の70%から80%のあたりを維持しながら、1日90分間走る。それを毎日必ず行う。無酸素ゾーンの心拍でのトレーニングはほとんど行わない」と聞いて、驚きました。それで100マイルレースで優勝しているんですよね。なるほどと思って、僕も心拍を150以下に抑えるようにして毎日90分間運動することを日課にしています。
――ハートレイトモニターを着けて行動するクライマーはあまり聞いたことがない。
倉上 たしかにそうかもしれません。ただ、心拍をチェックしながらクライミングすると、いろいろと新しい発見がありました。緊張する場面、たとえば超難しい局面とか、ランナウト(支点から遠ざかる)したときが一番上がりやすくて、簡単に170くらいまでアップします。ジリジリしているだけで、ほとんど体を動かしていないんですよ。びっくりじゃないですか。
――倉上さんは、とてつもない緊張感のなか、覚悟と勇気をもって一手を繰り出してきたわけじゃないですか。つまり、毎回のクライミングで気づかないうちに限界近くまで心拍数を上げていた。これはレース用エンジンがオーバーレブで壊れるようなもので、常に心拍数がレッドゾーンを越えていたことから起きた心臓病だったのかもしれませんね。
倉上 はい。たぶん、リスキーなクライミングを行う機会が多いぶん、心拍の限界を超える機会は、一般的なフリークライマーよりも多かったと思います。やはり心臓にも限界があるんですね。酷使すると壊れることがよくわかりました。
「入院中は野菜が食べたくなった」
――食事のほうはなにをどう変えたんですか?